影響が大きかった雇用統計

米雇用統計発表は、もともと金融市場で最も注目される経済指標の1つだった。ただ最近の場合は、特に米雇用統計発表のタイミングが結果的に相場の転換点と一致したり、新たな相場の始まりのきっかけになることが多かった印象がある(図表1参照)。その代表例として、2月3日、3月10日、そして7月7日のケースについて、具体的に確認してみたい。

【図表1】米ドル/円の日足チャートと雇用統計発表日(2023年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

2月3日

1月にかけて発表された米経済指標が予想より弱い結果が多かったことなどから、米2年債利回りは政策金利のFFレートを下回るまで低下、利下げへの転換を先取りするような動きとなった(図表2参照)。ところが、2月3日に発表された1月のNFP(非農業雇用部門者数)は予想を大幅に上回る「ポジティブ・サプライズ」となった。その後も、米経済指標の強い結果が続いたことで、この2月3日の米雇用統計発表は、結果的に「米金利上昇=米ドル高」へ転換するきっかけとなった。

【図表2】米2年債利回りとFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

3月10日

3月10日の雇用統計発表の直前にSVB(シリコンバレー銀行)の経営破綻が表面化、その後に金融システム不安が急拡大し、「米金利低下=米ドル安」が広がった。今から見ると、重要指標の雇用統計発表でも「米金利上昇=米ドル高」には限界があることを確認した上で、金融システム不安の「米金利低下=米ドル安」が本格化に向かったのではないか。

7月7日

7月7日に発表されたNFPは、1年以上ぶりに事前予想コンセンサスを僅かながら下回った(図表3参照)。これを受けてこの日の米ドル/円は下落したが、振り返ってみるとそれはさらに140円を大きく割れるまで米ドルが急落した始まりだった。

【図表3】NFPの予想と実績(2022年1月~)
出所:マネックス証券「経済指標カレンダー」

新たな相場の転換点となる可能性として注視を 

以上、代表例として3つのケースを振り返ってみたが、図表1を見るとそれ以外も含めて、このところ雇用統計発表が、相場の転換点や、新たな相場の始まりのタイミングと一致してきたことが多かったと言えるのではないか。

これは、歴史的なインフレが展開し、FRB(米連邦準備制度理事会)が大幅な利上げを続けることの米景気への影響が注目される中で、雇用の動向が予想以上に強い結果が続いてきたことなどから、通常より雇用統計の影響力が高くなっているのかもしれない。そうした観点で見ると、8月4日の雇用統計発表が、後から振り返って新たな米ドル安ないし米ドル高の始まりとなる可能性も、頭の片隅に置いておきたい。