◆小学2年生の娘は夏休みを謳歌し毎日遊んでばかり。「夏休みの宿題は?」と尋ねると、自由研究の課題があるという。自由研究のテーマは何にしたのかと訊くと、「猫について」だという。毎日一緒のベッドで寝起きしている愛猫について、いまさら何を「研究」するというのだろう。「猫は寝ているかご飯を食べているかのどちらかなんだから、研究のしようがないだろう?」というと、「違うよ、肉球の色や形や、どんな遊びが好きかとか、いっぱい調べることがあるよ!」
◆「でもね、夏休みの宿題の自由研究というのは、普段できない、もっと難しいことにチャレンジするものなんだよ。いつも一緒にいるペットについてじゃ、簡単すぎるじゃないか」「簡単だからいいんじゃない」「え?」「だって難しいテーマにしたら、やるの、大変でしょ?それで結局、できなかったらイヤじゃない」「...」 言葉を失った。
◆高い目標を掲げる。一生懸命に頑張ったけど結局未達に終わる。一方、堅実で無難な目標を設定する。しっかりとクリアする。企業人なら、どちらが評価されるだろうか。
◆「夢を叶える道のりに障害が立ちはだかった時、僕はいつも自分にこう言い聞かせてきた。レンガの壁がそこにあるのには、理由がある。僕たちの行く手を阻むためにあるのではない。その壁の向こうにある<何か>を自分がどれほど真剣に望んでいるか、証明するチャンスを与えてくれているのだ」 ランディ・パウシュ『最後の授業』で最も有名な一節である。彼が存命ならコンピュータ科学はきっとさらなる進化を遂げていただろう。6年前の今日、癌におかされたパウシュ教授は47歳の若さでこの世を去った。「ひとは生きる長さは選べない。だけど、生き方は選ぶことができる」という言葉を残して。
◆夢を叶える道のりは決して平たんではない。僕の娘も、この先の人生で何度も高いレンガの壁にぶつかるだろう。そのときこそ、自分の想いの強さを確かめればいい。だから、今はまだよしとしようか。「猫について」の研究で。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆