◆大川翔君の座右の銘は、フランスの詩人ジャン・コクトーの「青年は決して安全な株を買ってはならない」という言葉。「リスクをとって挑戦するということですね」 あっけらかんと翔君は言う。翔君は5歳のときに両親の仕事の関係でカナダへ渡った。9歳のときカナダ政府にギフテッド(天才児)と認定され、12歳で高校に飛び級進学、14歳で同国の名門大学5校に合格した。先日、一時帰国した際には下村文科大臣を訪れ、カナダのギフテッド教育や飛び級制度などについて説明した。
◆東大新聞によると、今年の東大生文系の就職先トップ3はメガバンク3行であるそうだ。日本の若者の安全志向、「寄らば大樹の陰」志向というのは、まったく変わっていない。バブル崩壊や金融危機を経ても、就職氷河期であろうと売り手市場であろうと、学生の保守的な選好はまったく変わっていないのである。
◆しかし見様によってはリスクを冒しているとも言える。銀行はそれほど「安全な株」だろうか。アドマティ・スタンフォード大教授とヘルビッヒ・マックス・プランク公共財研究所ディレクターの研究によれば、金融システムが脆弱な最大の原因は、自己資本が不十分な銀行が「他人のカネで博打を打つ」構造にある(『銀行は裸の王様である』東洋経済新報社)。その構造は、リーマン・ショックから5年以上が経ってもほとんど変わっていない。銀行の自己資本比率規制というのは、俗な言葉で言えば、銀行による博打のレバを何倍までに抑えるかという話である。
◆天才少年翔君も、飛び級ならではの苦労があったという。ダンスパーティーのパートナーを見つけなければならないが、周りは3歳年上。「気がついたらお姉さんたちは皆パートナーが決まってて。とうとう最後に、別の学校の同じ歳の女の子がパートナーに立候補してくれた。本当は男のほうから誘わなきゃいけないのに...」 僕から翔君にアドバイスを差し上げよう。「リスクをとって挑戦するということです」 年上のお姉さんは決して安全な株ではない。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆