◆GW中におこなわれた広島-巨人の6回戦。あのサヨナラの幕切れには眉を顰めた野球ファンも少なからずいただろう。2対2で迎えた九回裏1死満塁。広島の打者がマウンド上空辺りに打ち上げたフライを巨人の野手がお見合いして落とした。まさか落とすとは思っていないから、ボーンヘッドの連鎖が起きたのだ。インフィールドフライが宣告された時点で打者はアウト。塁上の走者には進塁の義務がなく、守備側がアウトをとるにはタッチプレーが必要。それなのに三塁走者はホームに突っ込むし、ボールを拾った野手はホースアウトと勘違いしてベースを踏んだだけ。これについて元慶大野球部監督の江藤省三氏は、「ルール無知はどんな失策よりも恥ずかしい」と批判している。

◆「資本主義とギャンブルは本来同じもの。競馬と資本主義の両方を作った英国人はそれをよく知っている。だからこそ、そこでどう紳士的に振る舞うかというルールを長い時間をかけて身につけてきた」(月本裕「賭ける魂」)。資本主義とギャンブルは本来同じとは、いささか言い過ぎの感もあるが、多分にその要素があることは否めない。「出たとこ勝負」という部分があるのは、商売でも相場でも同じである。だとすれば、なおのこと、公平でフェアなルールが必要だ。サイコロが歪んでいたり、テーブルが傾いていたりしたら、ギャンブルだって成り立たない。

◆以前にも書いたが、新規上場間もない企業が業績を大幅に下方修正した。違法ではないが、「信義に悖(もと)る」と言う意味では市場のルールを逸脱している。苦境に喘ぐ電機メーカーが大幅減資を発表した。無論、違法ではない。しかし、減資後に「資本強化」の名目で銀行やファンドから出資を受ければ、既存株主の持ち分は大きく希釈化する。これも信義則というルールを無視している。極めつけは、日本を代表する重電メーカーの不正会計。こちらは明らかにルール違反だ。過失で済まされる範囲か否か。可及的速やかな真相究明を求めたい。

◆前出の江藤氏は、「ルール無知はどんな失策よりも恥ずかしい」というが、上場企業は「ルール無知」では済まされない。それにもかかわらず、不祥事が後を絶たないのは、無知ではなく「ルール無視」、つまり「意図した失策」であり「故意の過失」であろう。言語道断である。そもそも野球のインフィールドフライは故意落球による併殺狙いを防止するためのルールだ。資本市場にも「故意落球」を厳しく取り締まるルールが必要ではないか。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆