「急過ぎる為替変動」の目安
米ドル/円が年初来の米ドル高値を更新し、140円の大台に迫ってきた。ちなみに、米ドル/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)は足元で115.7円程度なので、140円になると5年MAを2割上回る計算だ。
2022年9月22日に、1米ドル=145円程度で米ドル売り・円買いの為替介入が行われた。これは為替介入としては約10年ぶりのことだったが、この時の5年MAかい離率は25%程度だった。要するに、過去5年の平均値を25%程度上回ったところで、「行き過ぎた米ドル高・円安」として為替介入が行われたわけだ(図表参照)。ただこれは、過去の実績から見ると、介入の初動のタイミングとしては遅いものだった。
財務省は1991年以降の為替介入の実績を公表しているが、2022年以前は米ドル/円が5年MAから±20%以上に変動する前に為替介入が始まっていた。為替介入を行う第一の理由は、急激な為替相場の変動は経済に悪影響を及ぼす懸念があるためということだが、この「急過ぎる為替の変動」が、結果的に過去5年の平均値から±20%以上かい離する動きとなっていた可能性があった。
2022年、急ピッチで米ドル高・円安が広がる中で、財務省、日銀、金融庁が「急過ぎる円安の動きを憂慮する」との共同声明を発表し、円安へのけん制に動いたのは6月で1米ドル=135円程度でのタイミングだった。当時の5年MAかい離率は22%程度だった。
そして、9月に改めて財務省、日銀、金融庁の三者会合が開かれ、22日に145円程度で約10年ぶりの為替介入が実現。この時の5年MAかい離率は25%程度に拡大していた。このように、5年MAかい離率との関係で見ると、20%を大きく上回る中で円安けん制が強化された形になったわけだ。それにしても、それ以前に比べると円安けん制のタイミングは遅かったと言えるだろう。
ただ、当時は米国のインフレ対策に伴う急激な利上げによる米ドル高が進行中で、円安はその結果というのが実態だったと思われる。米利上げがいつまで続くかも分からない中で、日本の通貨当局の米ドル売り・円買い介入で円安を止めるのは客観的にも困難と見られた。こういった中で、為替介入出動のタイミングが、それ以前に比べて遅くなったのも仕方なかったのではないか。
そうした当時に比べると、すでに米国のインフレは是正に向かっており、米利上げもほぼ最終段階に達したと見られている。米ドル/円が過去5年の平均値を20%以上上回り、米ドル高・円安が一方的な動きになるようならけん制を再開する可能性はあるのではないか。