シリコンバレー銀行破綻受け、銀行銘柄に売り広がる
シリコンバレー銀行破綻のニュースを受けて、今週世界中の株式市場は大きく下落しました。今週に入り2日間で日経平均は3.3%下落。日本の銀行株も米国での騒ぎを受けて、大きく売られる展開となりました。
興味深いのは、アジア時間の3月13日(月)の株式市場がオープンする前に、米国財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)が、シリコンバレー銀行の預金者全ての預金を保護すると発表したにも関わらず、米国の銀行株は下げ止まる気配がなく、先週に続いて売られたことです。
シリコンバレーからそれほど遠くないサンフランシスコにある地銀のファースト・リパブリック・バンク(FRC)の株は13日(月)に1日で62%下落、JPモルガン(JPM)や、バンク・オブ・アメリカ(BAC)のような世界的な大手銀行銘柄も軒並み売られる展開となりました。
この流れを受け、アジア時間でも日本のメガバンク株を含むアジアの銀行株が売られました。マーケットは、今回の破綻の影響が金融システム内に広がると判断したのです。こういった事態によく発生する、銀行株のショートセラー(空売り業者)の売りも目立ったようです。翌14日(火)にマーケットは冷静さを取り戻し、銀行株が大きく買い戻される展開となりました。
リーマンショックと明らかに異なる状況
ウォール街の銀行セクターのアナリストたちは、今回のシリコンバレー銀行の破綻については、リーマンショックの時とは全く状況が違う、極めてイディオシンクラティック(独特なもの)であるという見方をしています。そもそも今回の破綻は、シリコンバレー銀行がベンチャー企業から入ってきた莫大な預金を、2022年の大幅な利上げが行われる前に償還期間の長い長期債に大量に投資してしまったというマネジメントの相場感が問題であり、ある意味初歩的なリスクマネジメント的な判断ミスが原因です。
シリコンバレー銀行の経営陣は2022年のような急激な利上げが起きると想定していなかったのです。同行が償還期間の短い、例えば1ヶ月のような短期債を購入すれば、1ヶ月後には元本100で戻ってくるので、その取引を継続していれば今回のような惨事には至らなかったかもしれません。
預金の解約に対応すべく、シリコンバレー銀行は米国の投資銀行であるゴールドマンサックス(GS)に対し債券ポートフォリオを売却。税引後に13.8億ドルの損失を確定させると同時に、そのロスを埋めるべくゴールドマンが主幹事となり17.5億ドルの株式と優先株で増資を行うというシリコンバレー銀行とゴールドマンサックスによるお膳立てがありました。しかし、マーケットはこのスキームを好意的に見なかったのです。「リスクフリー」(リスクなし)と言われている財務省証券投資をきっかけに銀行が破綻することになったのは、非常に皮肉なことだと言えるでしょう。
ニューヨークタイムズの報道によると、先週10日(金)の段階では、ホワイトハウスと米財務省高官の中には、米国経済の危機を起こす可能性は低く、政府による救済の必要性はないだろうという意見もあったそうです。その後、全米の新興銀行や、ビジネス界、そして共和党、民主党議員からも救済すべきだという意見があり、今回の破綻で困るのはシリコンバレーの富裕層のベンチャー企業だけではないのだと判断が変わったのです。いずれにしても今回の米国政府の対応は素早いものであったと思います。
また米大手地銀であるPNC銀行は、破綻したシリコンバレー銀行の買収を検討するにあたって、同行の中身を精査していたようですが、米国政府からリスクの補償が得られなかったため買収を諦めたとのことでした。
連鎖破綻回避に向け規制強化へ
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、規制当局は今回の破綻を受けて資産額1,000億ドルから2,500億ドルの銀行の資本と流動性の要件の強化を検討しており、銀行の健全性を評価するため毎年実施している「ストレステスト」の強化も話し合われています。
フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、今回の事件後、JPモルガン(JPM)、シティバンク(C)など大手銀行には、地銀や規模の小さい銀行の預金を解約し、口座開設をしたいという問い合わせが増えているとのことです。バンク・オブ・アメリカは、シリコンバレー銀行の破綻後150億ドル(約2兆円)以上の預金を獲得したと報じられています。
シリコンバレー銀行の預金に対する保護は確認されたものの、米国の中小銀行に対する預金者の不安は残っているでしょうから、今回の騒ぎが収まったわけではないでしょう。一方、シリコンバレー銀行の破綻で連れ安となった米国の財務内容の堅実なクオリティの高い世界的な大手銀行株については長期的な投資妙味があるのではないかと考えています。