130円も割れてきた米ドル

米ドル/円は、注目された米12月CPI(消費者物価指数)発表の後から、米金利が低下したことを手掛かりに米ドル売りが広がったこと、また1月18日予定の日銀金融政策会合でのさらなる金融緩和見直し思惑などから、この間の米ドル安値を更新し130円の大台をしっかり割り込んできました。

今回も2022年11月以降の米ドル急落局面のパターン通り、米ドル反発の限界を確認する中で、レンジを米ドルが下放れて一段安に向かった形となりました(図表1参照)。新たな米ドル安値圏に突入したことで、目先的にはさらなる米ドル下落リスクを試す可能性があるでしょう。ただその一方で、これまでの米ドル急落局面との微妙な「違い」も出てきました。

【図表1】米ドル/円の日足チャート (2022年10月~)
出所:マネックストレーダーFX

その1つは、米ドルの短期的な「下がり過ぎ」懸念です。米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は、足元ではマイナス9%以上に拡大しました。経験的に、同かい離率がマイナス10%程度まで拡大すると短期的な「下がり過ぎ」懸念が強まります(図表2参照)。さすがに、2022年10月に150円を超えていた米ドルが、その後の2ヶ月余りで20円以上も下落する中で、短期的な米ドルの「下がり過ぎ」懸念が強くなってきたようです。

【図表2】米ドル/円の90日MAかい離率(1995年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

もう1つ注目したいのは、米ドル売りの手掛かりになる米金利低下の「行き過ぎ」懸念です。米2年債利回りは、政策金利のFFレートを先週にかけて下回ってきました(図表3参照)。経験的に、利上げ局面では米2年債利回りはFFレートを上回って推移します。そんな米2年債利回りがFFレートを下回るのは、普通なら利上げの終了と利下げへの転換を織り込むところで起こる現象です。

【図表3】米2年債利回りとFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米インフレの是正が進む中ではありますが、さすがに早期の利下げへの転換といった予想はほとんどないでしょう。その意味では、早期の利下げへの転換を織り込んだような米2年債利回りの低下は「行き過ぎ」の可能性があるため、さらなる金利低下余地は限られ、むしろ「下がり過ぎ」の反動から金利が上昇する可能性があるのではないでしょうか。

以上を整理してみましょう。先週にかけて、米ドルがこの間の安値更新となったことで、目先的にはさらなる米ドル下落リスクを試す可能性がありそうです。その一方で、さすがに過去2ヶ月余りで20円以上も米ドルが急落したことにより、短期的には米ドルの「下がり過ぎ」、そして米ドル売りの手掛かりになる米金利低下についても「行き過ぎ」懸念が出てきました。その意味では、米ドルの下落リスクを探る展開が続くものの、そうした動きは比較的短期間で行き詰る可能性もあるのではないでしょうか。

ユーロ高・米ドル安に注目

先週にかけての米ドル安値更新は、対円に限ったことではなく、対ユーロなどでも同様でした。ただ、対円での米ドル安は、日米の2年債利回り差と比較すると「行き過ぎ」懸念が強いのに対し、対ユーロでの米ドル安は独米2年債利回り差と比較しても、ある程度正当化されるといった違いがあります(図表4、5参照)。

【図表4】米ドル/円と日米2年債利回り差(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表5】ユーロ/米ドルと独米2年債利回り差(2022年10月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

こうしたことから私は、米ドル安の主導役は対ユーロ、つまりユーロ高・米ドル安であり、その意味ではユーロ高・米ドル安の一巡が、米ドル/円も含めた米ドル安全体が一息付く目安になるのではないかと考えてきました。

そんなユーロ/米ドルも、ユーロ高・米ドル安が進む中で、徐々に短期的なユーロ「上がり過ぎ」、米ドル「下がり過ぎ」の懸念が拡大してきました。90日MAかい離率を参考にすると、ユーロ/米ドルは同かい離率が5%以上に拡大すると短期的なユーロ高・円安の「行き過ぎ」懸念が強まりますが、先週にかけて同かい離率はまさに5%を大きく上回ってきたのです(図表6参照)。

【図表6】ユーロ/米ドルの90日MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

対ユーロでの米ドル安が行き詰まると、対円での米ドル安は、上述のように金利差から見ると「行き過ぎ」懸念も強いだけに、その反動が入る可能性もでてくるのではないでしょうか。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は米ドル安が行き詰まり、反転に向かうといったイメージから、125~130円中心のレンジで想定したいと思います。