<< <<【中編】億り人の株主優待活用術・銘柄分析方法

安定した経営基盤を持つニッチな銘柄を狙う

――現在、注目されているセクターやテーマがあれば教えてください。

僕自身はセクターで銘柄を選ぶことはあまりありません。ただ、大企業に投資する場合には、SDGsやESGのような世界的な潮流を経営課題として意識しているかどうかは重視します。最近の機関投資家は、それらを考慮し、実践していない会社を投資対象にしない場合があるからです。

また、注目されているテーマで選ぶこともあまりありません。むしろ、ニッチなところや、誰も注目してないところを狙っています。注目されている銘柄は、既に株価が高くなっている場合が多く、人気があるうちはそれなりに堅調でも、失望したときは逆のことも起こりえます。

ですが、誰も注目していなければ、失望もありません。話題になっていない、目立たないけれど、毎年きちんと利益を計上している会社に僕は投資しています。

買いのタイミングを探る方法

――注目されていない銘柄は、どうやって探されるのでしょうか?

基本的には、会社四季報を通読して3,888社の上場企業を一通りチェックします。その中で気になった企業をより深堀していくわけです。大きく投資したいと思う企業が見つかったら、過去10年ぐらいまで遡って決算短信や有価証券報告書をチェックする場合もあります。割安であることが大前提ですが、過去一度も赤字を出していない、株主資本が継続的に成長しているなど、オールドエコノミー企業でビジネスモデルが優れている会社が好みです。これらの会社は堅実で着実に利益を積み上げているにも関らず日本では、そのような会社があまり評価されていません。

日本ではどちらかというと、AI、ITなどの情報産業の会社は過剰に評価され、製造業などの会社はあまり評価されない傾向があります。もちろん、製造業も様々ですから見極めは大切ですが、浮き沈みが激しい時代に安定した利益を出し続けている会社は、優秀な会社であることは間違いありません。そのような企業の中には、名前はあまり知られていないけれど、縁の下の力持ち的な存在として堅実な経営をしている企業は多い。そういう会社が資本政策や配当政策に力を入れ始めた時が、狙い目だと思っています。

例えば、企業のトップが交代した時は、会社が変わるチャンスだと思います。だから、IR部門に電話して、「社長が交代して社内の雰囲気は変わりましたか?」と聞いたりもします。

――確かに、会社の風通しが良くなったら、株主への対応も変わるかもしれませんね。

そうです。閉ざしていたドアが開くと、一気に変わることがある。もともとポテンシャルの高い会社に変化が見られたら、さらに上向く可能性もあります。

例えば、これまで『就職四季報』(東洋経済新報社)などに広告を出していなかった会社が、求人広告を出すとか、求人のうたい文句が変わるなどもヒントになります。ある時、「20○○年に、このような事業をやりたいから、このような人材を募集します」という求人広告を出した会社がありました。その時点では、IRには新規事業の情報は出ていませんでしたが、「これからこういう事業をやりたいんだな。人材が集まったら、面白い会社になるかもしれない」というヒントを得ることができました。

求人情報と不動産の新規出店には投資のヒントがあります。でも、手間暇かけてそれらをチェックする人は少ない。もちろん、そういうのを調べるのが得意とする人もいれば、苦手な人もいると思います。僕の場合は好きだからやっているという感じです。でなければ、34年も専業投資家をやっていなかったでしょうね(笑)。

資産運用の醍醐味は、人生の選択肢が増えること

――これまで築いた資産を将来、どのように活用したいとお考えでしょうか?

生きているうちにできるだけお金を使っていこうと考えています。僕は大金持ちになりたいとも思わないですし、物欲もそこまでないので、まずは旅行など体験に使っていきたいと思ってます。旅行へ行くと視野も広がりますし、いろいろな国の人と関わることができるのでとても刺激になります。一通りやりたいことも済んだら株式投資で稼いだ資産の一部を拠出して「かぶ1000財団(仮)」を作り、財団で資産運用しながら、社会的に意義のある活動をしている団体などに継続的に寄付できたらいいなと思っています。お金を有効活用してくれる人たちや、勉強を続けたくてモチベーションがあるけれど学費がない学生を支援できたらいいなと思っています。

――素敵な目標ですね。では最後に、これから投資を始める20代、30代の方にアドバイスをいただけますか。

株式投資を始めたいけど躊躇している人に理由を聞くと、「損をする可能性があるから」と「何を選んでいいのかわからない」と答える人が多いようです。「損をする」と思うのは、株式投資を株価の値動きに応じて資産が増えたり減ったりするものだとイメージしているからでしょう。でも、僕は株式投資において重要なのは、株価の値動きより、「自分自身が本当にいいと思える会社に出会い、投資することができるかどうか」だと考えています。

自分自身が納得できる会社に投資できていれば、その日や1ヶ月後、1年後に株価がどうなろうとそれほど気にならないと思います。株価の動きだけでなく、それよりも、どういう会社に投資したいか、その会社に投資することで、自分の生活がどのように良い方向に変わるかという視点から考えることが大切です。

年齢を重ねてから投資を始めるのもいいですが、僕は柔軟性が高い若いうちから投資を始めたほうがより良いと思っています。僕自身も14歳から株式投資を始めました。若ければ若いほど残りの寿命が長いわけですから、複利の力を活かすことができます。

株式投資はもちろん失敗することもありますが、その失敗も若いうちに経験した方がいい。僕自身も今になってみると高校生のときに失敗を経験できてとても良かったと思っています。若い時の失敗や経験はその後の人生の糧となります。まずは勇気を持って素晴らしき株式投資の世界へ参加してみてください。

かぶ1000さんの投資ルール
● 話題になっていない、目立たないけれど経営基盤がしっかりとした会社に投資する
● 「お値打ち」「お買い得」と思えるか、納得いくまで徹底的に調べる
● 会社の現場に足を運び、生情報を確認する
● 決算やIR情報だけでなく、日常で目にするあらゆる情報から投資のヒントを得る
● その会社に投資することで「自分の生活がどのように良い方向に変わるか」という視点で考える

日本人は、失敗をネガティブに捉え過ぎではないかと思います。もちろん自分が全く知らない会社に投資したり、中身がよく分からない金融商品を買うのはいけません。そういう投資をしなければ、失敗することはあっても経験を積むことで長期的に見れば投資の恩恵を享受できるのではないでしょうか。

投資を始めるきっかけは、配当金目的でも株主優待目的でもいいと思います。そこから投資に興味を持って、少しずつ投資資金や投資に対する時間を増やしていく。「案ずるより産むが易し」ということわざがありますが、株式投資も僕は同じだと考えています。まずは、固定概念をなくして、始めてみることが最も大切だと思います。

もちろん、向き不向きもあると思います。「個別株投資に向いていない」と思ったら、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなど税制優遇制度を活用したインデックス投資などを検討することも1つでしょう。

自分で銘柄を選ぶにしても、インデックス投資をするにせよ、投資と関わり続けることが大事です。

――継続は力なりですね。

そうです。僕は資本主義社会の日本において、資本家側に回りお金を生み出していく環境を自分自身で作っていくことが大切だと思っています。資本家側に回る手段の1つが企業の株式を買って株主になり、その企業の所有者(パーシャルオーナー)になることなのです。

僕は、株券は、資本主義でお金持ちになるためのチケットだと考えています。といっても、今は株券が電子化され、紙のチケットではありませんけど(笑)。資本家になるためのチケットである株券を持つことで、労働からだけでなく、保有する株式からもキャッシュフローを得ることができようになる。いろいろなところからフローが増えてくると、生活も少しずつ豊かになりますし、同時に将来の不安も少しずつ軽減されるのではないでしょうか。

配当収入だけで、自分の年収を超えたら、仕事をやめても困らない。そう思えたら、気持ちが楽になるでしょう。「給料が下がってもいいから好きな仕事をしよう」と思えれば、仕事の選択肢も増えるでしょう。資産運用をする醍醐味は、人生の選択肢が増えること、有意義な時間を増やすことにあると思います。

もちろん、株式市場において「絶対」が存在しないこともわかります。僕自身、これだけ会社のことを調べてから投資しているのに、判断を誤ったり損をした経験もたくさんありますから(笑)。

肝心なのは個々の勝ち負けではなく、「トータルで見てどうか」です。テストでも毎回百点満点を取れる人はいません。個別株投資をするならば平均点である指数(インデックス)を上回るパフォーマンスかどうかが基準になります。今は様々な金融商品があります。手数料も以前より安くなり、スマホからも簡単に取引ができるようになりました。たくさんの選択肢の中から自分に合った投資スタイルを見つけることが株式投資と末永く付き合っていく秘訣ではないかと思うのです。

――本日はありがとうございました。

※本インタビューは2022年12月7日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。