米ドル買い戻しの背景
2023年の取引スタートとなった先週は、早々に130円割れとなったものの、その後は米ドル買い戻しが広がり、1月6日には135円手前まで米ドル高・円安に戻すところとなりました。ただ、その後発表された2022年12月ISM(米供給管理協会)非製造業景気指数が予想以上に悪化(予想:55.1、結果:49.6)したことをきっかけに、米金利が大幅に低下。米ドルも一時は132円を割れるまで急落しました(図表1参照)。
このように、2023年は取引スタートから上下に荒い展開となりました。その中でも、まずは米ドルが135円近くまで大きく買い戻された背景から確認してみましょう。米ドル買い戻しが拡大した主な要因は2つではないかと考えています。1つは、金利差からのかい離、そしてもう1つはユーロ/米ドルの動きです。
上述のように、年末年始で米ドルは一時130円を割れるまで続落となりました。ただこの動きは、日米金利差から大きくかい離したものでした(図表2参照)。金利差からかい離した米ドル売りは続かず、後でも述べますが、2022年12月FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録でタカ派姿勢が変わらないことが確認されたことなどをきっかけに、一転して米ドルが買い戻されたのではないでしょうか。
もう1つ米ドル買い戻しが広がった要因として、ユーロ/米ドルの動きが注目されました。ユーロ/米ドルは年末年始に1.07米ドルを超えるまでユーロ高・米ドル安となりましたが、その後はユーロ安・米ドル高に転換し、1月6日には一時1.05米ドル割れとなりました(図表3参照)。
まず年末年始にかけてユーロ高・米ドル安が続いたのは、金利差の影響が大きかったと考えられます。このところ、金利上昇ペースで独が米国を大きく上回り、独米金利差ユーロ劣位縮小が目立っていました(図表4参照)。これは根強いユーロ圏内のインフレ懸念を受けて、当面の利上げ幅においてECB(欧州中央銀行)はFRB(米連邦準備制度理事会)を上回るといった見通しが影響したと考えられます。
このように金利差で正当化されたユーロ高・米ドル安は、対円などでの米ドル安にも影響していた可能性があったのではないでしょうか。別な言い方をすると、ユーロ買いが米ドル下落の主導役になっていたということです。
ところが、1月3日に発表された独12月CPI(消費者物価指数)は上昇率が予想を超えて大きく低下(前回:10.0%、予想:9.0%、結果:8.6%)。これを受けて、独金利も大きく低下に転じたことから、ユーロ/米ドルもすでに述べたように、一時は1.05米ドル割れまでユーロ安・米ドル高に戻すところとなりました。米ドル安を主導したユーロ買いがユーロ売りに転換したことは、対円などでも米ドル安の修正が入りやすくなった要因だったと考えられます。
米ドル安再燃はあるのか
ここまで、先週の動きの中でも米ドルが買い戻された背景について確認してきました。ただ、1月6日のISM非製造業景気指数の悪化を主なきっかけとし、米ドルは急落となりました。そこで再び米ドル安拡大に向かうかについて考えてみたいと思います。
ISM非製造業景気指数の悪化を受けて、米金利は10年債利回りが前日終値比0.15%もの大幅な低下となり、またNYダウは700米ドルの大幅高となりました。米景気後退への懸念から、FRB利上げ姿勢が緩むことを期待した動きと考えられます。
ただ、1月4日に公表された2022年12月FOMC議事録では、「2023年中の利下げを予想する参加者はいなかった」「経験的には、金融政策を時期尚早に緩めるのは慎重になるべき」とした上で、「市場が誤った判断(株高、金利低下)となることは、FOMCによるインフレ是正への努力を阻害する」とまで述べていました。
以上のことから、1月6日のISM非製造業景気指数を受けた株高、米金利低下といった動きも、この間続いてきたFOMCとの「大いなる認識ギャップ」による可能性が高いのではないでしょうか。
今週は、注目のインフレ指標、米12月CPI発表が予定されており、前年比上昇率は前回の7.1%から6.6%へ一段と低下すると予想されていますが、FOMCとの認識ギャップの中で予想通りインフレ是正が進んでも、米金利の低下、それに伴う米ドル下落には自ずと限度があるのではないでしょうか。
それでも、過去2ヶ月、米ドル/円は米ドル反発の限度が確認されると、一段安に向かうパターンが繰り返されてきました(図表1参照)。その意味では、年末年始から続いている130~135円のレンジを抜けた方向に当面のトレンドが出る可能性は高いでしょう。以上を踏まえた上で、今週の米ドル/円については、まさに130~135円中心での展開を予想したいと思います。