地政学リスクの高まりやインフレ、金利上昇に伴い、2022年の金融市場は難局が続きました。不確実性が高まるなかで、私たちはどのように情報を捉え、先行きを見通していくべきなのでしょうか。そのヒントをお伝えすべく、経済ジャーナリスト・後藤達也さんとマネックス証券 会長の松本大の年末スペシャル対談をお届けします。2023年の相場展望、個人投資家が持つべき視点、金融・経済プロの情報活用術とは――。

2人の意外な接点

松本:本日は対談にお越しいただきありがとうございます。

後藤:こちらこそ。私にとって松本さんは証券市場への案内人のような存在です。2000年当時、私が大学1年生の時、松本さんが大学に講演に来られたのを拝聴しました。ちょうどゴールドマン・サックス証券を退社されて、マネックス証券の株式上場を控えられている時期でした。松本さんのお話を聞いて「この人の会社の株を買ってみたい」と思い、マネックス証券のIPOに応募して当選したことが株式投資を始めるきっかけになりました。

松本:確か、初値は6万3,300円でしたね。

後藤:そうですね。IPO後は何度もストップ高になり、あっという間に株価は10万円を超えました。当時はIPOの当選の仕組みやストップ高という制度もよくわかっていませんでしたが、「金融の世界って面白そうだ」と感じたことが、今の仕事につながっています。

プラットフォームやメディアに応じた情報の使い分け

松本:後藤さんがTwitterなどで発信されている情報を見ると、図表の見せ方などを非常に工夫されていて、わかりやすいなと思います。どのような点にこだわって情報発信されているのですか。

経済ジャーナリスト 後藤 達也 氏

後藤:私はプラットフォームやメディアによって情報発信の方法を分けて考えています。例えば、Twitterはタイムラインに大量のTweetが流れてくるので、10秒ぐらいかけてようやく理解できるような内容はTwitterに向きません。短い時間勝負の中で「私に10秒、時間をください」といっても、なかなか難しいわけです。瞬時に読み手の関心を引かなければなりません。そのため、グラフの本数を多くしないなどの工夫が必要になります。

一方、YouTubeは基本的に視聴者がその動画を見ようと思ってアクセスする場合が多い。これまでの視聴履歴からアルゴリズムでおすすめの動画が流れてくる場合もありますが、自然と5分、10分と観てしまう。そういった点では、5分、10分かけてある程度しっかりと内容を伝える設計でもいい。ただ、退屈だと10秒ほどで飛ばされてしまうので、冒頭で視聴者の関心を引きつける工夫も必要です。

同じ時代に同じ物事を伝えるにしても、メディアの特性や、その先にいる読者、視聴者は一律ではないということを意識するのが大事だと思います。

金融市場の根っこにある米国の金利

松本:後藤さんは、オーソドックスな資本市場の話題を取り上げる際には、米国の金利が根っこにあって、その上にいろいろなものがあるという観点でお話をされています。私も米国の金利を常にチェックしていますが、日本のメディアはあまり米国の金利に注目してこなかった気がします。

後藤:日経新聞でも株が一番、為替がその次で、金利の話が一面トップに掲載されるのはほとんどなかったと思いますね。やはり、金利は小難しい面があります。「株が上がった・下がった」「円安・円高が進んだ」というのは、わかりやすい。しかし、長期金利を取り上げても「そもそも長期金利と短期金利の差がわからない」「債券の仕組み自体がわからない」という人が多いのが現状です。金融情報を伝える側にとっても、金利の話はなかなか話題にしにくいという面があると思います。

松本:後藤さんは、その点もしっかり発信されていますね。

後藤:はい。米国債は金融市場の根幹にあるものだと考えていますから、そこはしっかりとお伝えしています。また、ここ数年間でFRB(米連邦準備制度理事会)の存在感が大きく増したことも関係しています。FOMC(米連邦公開市場委員会)が、その日のS&P500や翌朝の日経平均株価を激しく動かす一大イベントになっています。20年前と違って、個人投資家もFOMCや米国の金利動向を直視せざるをえない状況に変わってきました。

松本:確かに今の世界経済はお金を刷り過ぎて、もう流動性の海どころか、流動性の宇宙みたいになっています。そこに浮かんでいる金融商品に関しても、個体差というより、市中に溢れるお金の量が増えるか減るか、海面が全体的にどうなるかの影響をあまりにも大きく受けるようになっているのが現状ですね。

後藤:もちろん個々の企業や実体経済がどうなっているかも重要ですが、金融政策のウェイトが、あまりにも大きくなっている気がしますね。

あらゆることに備えて、反射的に対応する

松本:後藤さんは様々な情報を再編集、再構築したうえで配信されていますが、どのように情報を収集されているのですか。

後藤:新聞記者時代に築いた人脈を今も大切にしています。もちろん、公に流れているニュースの中にも重要な情報はたくさんあります。ニュースメディアや著名な方々がSNS等で発信していることや、シンクタンクの調査情報など公開されているものをまとめるだけでも、十分良い情報整理になると思います。

松本:私も毎日、大量の情報をインプットしています。TwitterなどSNSや日本・海外のニュースメディアから、サブカルチャー的なメディアまで、たくさんの情報をチェックしています。個人的に購読している有料メディアもあり、なかにはお金を払わなくても、1時間後には無料で手に入るような情報もあります。ただ、時々、「有料会員になっているお陰で、この情報を早く入手できてよかった!」と思うことがあります。ですから、有料メディアの購読はやめられません。

後藤:お忙しい中で、どのように情報をインプットする時間を捻出されているのですか。

松本:最近は、毎朝ジョギングをしながらポッドキャストで日本のコンテンツを2つ、海外のコンテンツ1つを聴いています。海外のニュースに関しては米ニュースサイトAxios(アクシオス)のポッドキャストが、非常に分かりやすく、きちんと分析されているので活用していますね。米国のニュースも左派と右派、両方のメディアをチェックして、バランスよく入手するように心がけています。芸能人のゴシップにも詳しいですよ(笑)

後藤:すごいですね。私もなるべく幅広く情報を取り入れないといけないと思っていますが、どうしても仕事に関連する情報に意識が向いてしまっています。ただ、全く仕事と関係ない分野についてもアンテナを立てておかないと、発想が広がらないのではないか…という危機感もあります。

マネックス証券 会長 松本 大

松本:私は昔、トレーダーをしていましたが、トレーダーにとって大切なのは、転ぶ時に間違った方に転ばないことです。例えば、縁石があって右側が車道、左側が歩道で、歩道側には転ぶと痛そうなトゲのある低木が植わっているとします。縁石の上を酔っぱらって歩いていてバランスを崩したとき、車道側に倒れると車にひかれて死んでしまう可能性がある。歩道側に倒れると、トゲが刺さって痛くて血が流れるかもしれません。でも、死なない。酔っ払いながらも、その情報を察知できるからです。だからこそ、何かが起こってバランスを崩した時、無意識のうちに歩道側に倒れ込める。

要は、何かが起こった後に急いで情報を取り始めても、「too late(すでに遅い)」です。何も起きていない時から様々なことを知っておかないと瞬時に反応できない。そういったことをトレーダー時代に体得しているので、直接仕事に関係しない情報も積極的に取り入れるようにしています。

後藤:あらゆることに備えておかないと、どんなことにも反射的にうまく対応できないということですね。トレーダーにとって儲けることはもちろん、いかに大損しないで出血を最小限で食い止めるかも大事ですからね。それは、経営についても言えることでしょうか。

松本:会社の業種や成長ステージによって異なると思います。1回のミスで会社が終わってしまうようなケースもありますし、とにかく成長しないと次がないというようなケースもあります。いずれにしても、さまざまなことを知っておかないといけない。ですから、後藤さんのTweetも参考にしています。

後藤:ありがとうございます!

>> >>【後編】2023年の相場展望、資産形成の普及策とは?

※本記事は2022年12月14日に実施された対談を後日、編集・記事化したものです。
※対談の動画前編は以下よりご覧いただけます。