メキシコペソ/円:米ドルも上回った対円での上昇率
代表的な新興国通貨であるメキシコペソと南アフリカランドは、2022年に大きく上昇した。特にメキコシペソ/円は7.5円まで上昇、これは2015年以来、約7年ぶりの高値だった(図表1参照)。なお、メキシコペソの2022年の対円最大上昇率は、11月末までの段階では41%に達した。これは米ドルの同33%も大きく上回るものだった。
2022年の米ドル高・円安は記録的ペースで展開し、1990年以来約32年ぶりに150円を越えたこともあり、歴史的米ドル高・円安とされた。ところが、対円での上昇率では米ドルをメキシコペソが大きく上回ったので、いかに2022年のメキシコペソ高・円安がすごいものだったかが分かるのではないか。
新興国通貨が2022年に大きく上昇した理由
ただ、そんなメキシコペソ高は経験的には「不思議」とさえ言えるものでもあった。2022年は、約40年ぶりの本格的なインフレに遭遇した米国が、積極的な金融引き締め策を展開した年だった。経験的には、米国の利上げ局面においては、特に新興国から資金流出が拡大し、むしろ通貨危機に陥ることもあった。
では、なぜ今回の米金融引き締め局面においては、メシキコペソ、そして後で詳述する南アフリカランドといった新興国通貨は通貨危機どころかむしろ大きく上昇するところとなったのか。
1つ考えられるのは、新興国の多くは資源・穀物が豊富であり、インフレ、つまり「モノ」の価値が高まる局面において、その点がプラスに評価されたということだ。また、メキシコも南アフリカも2021年中に利上げを開始。2022年3月から利上げを開始した米国よりかなり早い利上げのスタートだった。そして政策金利の水準は、米国が4%であるのに対し、メキシコは10%、南アフリカは7%といった具合に大きく上回っている(2022年11月末現在)。このような金融政策も評価された可能性はあるだろう。
まとめ:2023年の為替 メキシコペソ/円の予想レンジとその根拠
では、メキシコペソ高・円安は、2023年も続くだろうかと言えば、少し気になるところがある。それはこの間のメキシコペソの大幅な上昇を受け、過去の実績と比較してみると、メキシコペソの割高懸念が記録的に拡大している可能性があるからだ。
メキシコペソ/円の5年MA(移動平均線)かい離率は一時プラス30%以上に拡大した。これは2014年末に記録したプラス20%超を大きく上回るものだった(図表2参照)。なお、2014年末にかけて同かい離率が急拡大したのは円安の影響も大きかった。2015年6月125円まで、当時としては記録的な米ドル高・円安が進む中で、対円でのメキシコペソ割高も急拡大となったわけだ。
この2014年末にかけてのメキシコペソ割高拡大は、2015年に入り米ドル高・円安が一巡し、米ドル安・円高に向かう中で割高修正が進むところとなった。以上を参考にすると、今回の米ドル高・円安が終わり、2023年にかけて米ドル安・円高が広がるようなら、それはメキシコペソの対円での記録的な割高修正を後押しする影響も注意が必要ではないか。
以上を踏まえ、2023年のメキシコペソ/円の予想レンジは、6~7.5円で想定したい。
南アランド/円:リーマン・ショック前以来の「上がり過ぎ」
南アフリカランド/円も2022年に8.8円まで上昇した。これは2018年以来約4年ぶりのランド高値だった(図表3参照)。こうした中で、南アフリカランド/円の5年MAかい離率は一時プラス10%程度まで拡大。これは2008年のリーマン・ショック前以来のランド「上がり過ぎ」の可能性を示すものだった(図表4参照)。
南アフリカランド/円は、大統領の不正疑惑に関する報道などをきっかけに11月末から急落となった(図表5参照)。ただ根底には、これまで見てきた記録的なランド「上がり過ぎ」により、その反動から何らかのきっかけで下落リスクが急拡大する懸念があるということではないか。以上を踏まえ、南アフリカランド/円の2023年の予想レンジは、6.5~8.5円で想定したい。