前回のコラムでは、現役時代に積み上げた資産をなるべく長く持たせるためのポイントとして、以下の3つを挙げました。
(1)なるべく長く働いて老齢厚生年金額を増やす
(2)年金の繰下げをして終身で受け取れる年金額を増やす
(3)合理的な資産運用を続ける

今回は(1)と(2)について解説していきます。

10月からパートの「厚生年金加入」が適用拡大に

事例をご紹介します。会社員のAさん(55)と妻Bさん(54)は、大学4年生の子どもの学費の支払いを終えたため、これからは本格的に夫婦の老後資金の準備をしたいとご相談に来られました。

現在、Bさんは会社員である夫の扶養内でパート勤務をしていますが、勤務先から、パートでも厚生年金に加入できるようになると説明されました。保険料を負担することになりますが、将来受け取れる年金が増えるのなら、働く時間を増やすことなどを検討したいと考えています。

2022年10月からパートで働く人の「厚生年金加入」が適用拡大になりました。以前はパートで働く人が厚生年金に加入するには、
(1)従業員数が501人以上の企業
(2)週労働時間20時間以上
(3)月収8万8000円以上
(4)継続して1年以上働く見込み
(5)学生ではない
の要件を全て満たす必要がありました。

この要件を見直し、2022年10月からは、従業員数が「101人以上」、継続して働く期間が「2ヶ月超」になりました。2024年10月からは従業員数が「51人以上」となり、さらに対象者が広がります。

「社会保険に加入すると、手取りが減るから嫌だ」という方もいますが、厚生年金保険に加入すると、将来受け取る老齢厚生年金は増えますし、障害を負った場合には、障害基礎年金に加えて障害厚生年金を受け取れます。万一の場合には、遺族厚生年金も支給されます。また、ケガや病気、出産などで仕事ができない場合は、健康保険から賃金の3分の2程度の傷病手当金や出産手当金を受け取ることができます。

筆者は、Bさんに、「長い人生を考えると、なるべく長く働いて老齢厚生年金額を増やすことは老後の安心につながります。特に女性は長生きですから、ぜひ、厚生年金に加入しましょう」と伝えました。

働き方によって、どのくらい年金額が増えるのか

働き方に応じてどのくらい年金額が増えるかは、厚生労働省が4月に試験運用を始めた「公的年金シミュレーター」(※)で試算できます。

これまでも日本年金機構の「ねんきんネット」で試算できましたが、公的年金シミュレーターは、本人確認不要で、入力した情報も保存されず、パソコンやスマートフォンで気軽に使えるようになっています。

サイトを開いて、生年月日を入力し、「試算する」をタップします。「ねんきん定期便」が手元にあれば、印刷されている二次元コードを読み込むだけで、これまでの働き方を反映した年金見込み額が示されます。ねんきん定期便が手元になくても、「働き方・暮らし方」を直接入力していくことができます。

スマホを使って、実際に試算してみましょう。例えば先述のBさん(1968年6月18日生まれ)は、結婚前、29歳までは会社員として働いていました。まず、「働き方・暮らし方①」は「会社員・公務員(厚生年金)」を選び、「期間」は「22歳〜29歳まで」と入力します。年収は期間中の平均値を入れます。Bさんは「300万円」でした。

次に、結婚後の状況を「働き方・暮らし方②」で、「配偶者の扶養(第3号被保険)」を選びます。今後もずっと夫の扶養のままでいるとすると、期間は「30歳〜59歳」になります。「試算する」をタップすると、Bさんが65歳以降受け取れる年金見込み受給額は「87万円」と出ました。

では、厚生年金に加入して働くと、年金額はどのくらい増えるでしょうか。Bさんは「70歳くらいまでは働きたい」ということですので、試算してみます。先ほどの「配偶者の扶養(第3号被保険)」の期間を「30歳〜54歳」とし、「+働き方・暮らし方の追加」で「パート・アルバイト(厚生年金)」を選び、「55歳~69歳まで」と入力します。今後、週30時間を時給1,200円で働くとすると月約14万4000円、年収は約173万円となるので、それを入力します。

すると、65歳以降受け取れる年金見込み受給額は「106万円」、70歳以降は「120万円」になりました。2022年3月までは、65歳以降の被保険者期間については 資格喪失時にのみ年金額が改定されていましたが、制度改正により在職中であっても、毎年10月に改定されることになりました。

一生受け取る年金額を増やすには

公的年金の受給開始は原則65歳ですが、繰り下げるほど受け取れる年金額は増え、繰り上げるほど減ります。「公的年金シミュレーター」では、これを反映した試算もできます。

Bさんが70歳から受給開始する場合で試算すると、年金見込み受給額は「164万円」に増えました。夫婦の年金を合わせると額面で月々約30万円です。このように厚生年金に加入して長く働き、繰り下げ受給すれば、一生受け取る年金額を増やすことができます。皆さんも、働く期間や年収、年金受給開始年齢を変えてシミュレーションしてみるとよいでしょう。

女性は2人に1人以上が90歳まで生きる時代です。厚生年金への加入は老後の安心につながります。老後の資金の準備をするとき、何歳まで生きるかわからないところが難しいところですが、生涯受け取る公的年金を増やせるように働き方を変えていくのは合理的だと思います。また、インフレが懸念されるなか、将来の購買力を低下させないためにも、資産運用が必要になっていると言えるでしょう。

収入が増えれば、より多くの資産を運用していくことができます。確定拠出年金や少額投資非課税制度(NISA)などを優先的に利用して、運用を続けましょう。自分もできるだけ長く働く、お金にも長く働いてもらうことが大切です。

次回は、冒頭で述べた3つ目のポイント、合理的な資産運用を続けることについてお伝えします。

(※)厚生労働省「公的年金シミュレーター」
https://nenkin-shisan.mhlw.go.jp/main.html