小売業界をディスラプトしたアマゾン
今や私の住むマンションでも、アマゾンから届く箱を見ない日はありません。日曜日の夜の国民的・長寿アニメと言えばサザエさんですが、そのサザエさんが放送を開始して以来の長年のスポンサーは東芝1社でした。しかし2018年、東芝が経営再建の一環として番組のスポンサーを降り、代わりに複数の企業がスポンサーになった際、そのうちの1社に入ったのが米国企業のアマゾンでした。
それから4年経ち、アマゾンは、私たちの日々の生活の中に浸透し、日本人の買い物のパターンを大きく変えました。アマゾンは、スマホのアプリでありとあらゆる商品をわずか数分で買い物できる環境を用意し、翌日には注文したものを顧客に届けるという、誰も想像すらできなかった体制を整え、私たちの買い物の仕方を変えたのです。そのアマゾンが作り上げた顧客にとっての利便性は、日米だけでなく主要先進国の小売業界をディスラプト(破壊)したと言われています。
ITバブル崩壊を経てベゾスがもたらした大きな進化
そもそもアマゾンは1994年にそれまでウォール街の投資銀行で働いていたジェフ・ベゾス氏が、ネットで書籍を販売するというシンプルなコンセプトで始めた企業です。同社は、1997年5月15日にナスダックに株式上場を果たしました。0.075ドル(株式分割後)で上場した株価は、その後ITバブルの頂上で5.65ドルまで上昇。その後ITバブルの崩壊で2001年10月には0.275ドルまで下落します。
当時、株価の乱高下は混乱をもたらしましたが、アマゾンのサービスは進化し続けます。同社は当初、書籍だけ扱っていましたが、ありとあらゆるものを扱えるよう事業を拡大し始めました。その後、2005年には会員制の無料配送サービスを受けられるアマゾン・プライムを開始。そしてアマゾン・プライムでは、無料で映画を視聴できるPrime Video(プライム・ビデオ)(2011年開始)、無料で音楽を聴けるアマゾン・ミュージック(2014年開始)、そして米国の大都市で2時間以内に商品を届けるアマゾン・ナウ(2014年開始)のサービスも始めました。
アマゾンはプライム・ビデオのライブラリーを充実させるべく、2021年には老舗の映画制作会社であるメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を買収しました。2006年にはクラウドサービスのアマゾン・ウエブ・サービス(AWS)を開始。利益率の高い同事業は、今ではアマゾンの稼ぎ頭になっています。
オンライン・ショッピングで急成長を遂げてきたアマゾンですが、2017年には食品スーパーで自然食品やオーガニック食材を売りにするホールフーズを買収し、実店舗ビジネスへの参入も図ります。アマゾンはジャスト・ウォーク・アウェイ・テクノロジーと呼ぶ技術を開発し、無人店舗のアマゾン・ゴー(Amazon Go)を全米で展開し始めました。この技術は一部ホールフーズでも適用され、人件費のかからない小売業を拡大しており、利益率の向上に役立つものと思われます。
また、アマゾンは、2014年には世界で初めて人工知能搭載スマートスピーカーのアマゾン・エコーを発売しました。私は米国で発売された当初からアマゾン・エコーを愛用し、その進化を体験してきました。発売当初はぎこちない会話しかできませんでしたが、今ではそれなりの会話ができるようになっています。しかも、アマゾン・エコーの1号機はスピーカーだけでしたが、今ではスクリーンも付いて映画も楽しめるようになっています。同社は顧客がアマゾン・エコーに「アレクサ、洗剤を注文して」というだけで、翌日自宅に洗剤が届くような利便性の高いサービスを提供しています。
アマゾンは、日本の7倍の国土を有す米国で翌日配送を可能とするために、フルフィルメントセンターと呼ばれる配送センターのネットワークを構築してきました。しかもコロナ禍において、その規模を倍に拡大しており、将来の規模拡大に備えての準備を着実に整えています。
また、アマゾンは自前の輸送用のジェット機を80機以上も保有しており、既に1つの航空会社のようなものです。他社に頼らず自前で配達できるインフラを構築しました。これにより同社は全米で4番目に大きな配送会社でもあるのです。
配送センターから顧客へ届けるまでの間のことをラスト・ワン・マイルと呼びますが、実はその間のコストが一番多くかかっています。そのためアマゾンは米国内で自動ロボットによる配達を初めており、年内にはドローンによる配達も開始する計画を立てています。
このような展開により、規模を拡大しつつコスト削減を図り、長期的に利益率の向上が見込まれます。
そんなアマゾンの現在(9月8日時点)の株価は129.82ドルです。アマゾンの上場時点の株価は0.075ドルですから、100万円投資をしたとすれば現在17.3億円になった計算です。
今後のアマゾンの成長性は
ここまで株価が上がってきたアマゾンですが、果たして同社の成長はここで止まるのかを考えてみましょう。今後、米国の経済が成長する過程において、長期にわたって小売の規模は拡大していくでしょうし、オンラインで買い物をする人は増えていくものと思われます。
2021年の米国における小売全体のオンライン・ショッピングの比率は11.8%ですが、これが2030年には33%になるだろうと言われています。こういった流れの中、注文量が増えても対応できる体制を構築したアマゾンは、オンライン・ショッピング市場において、引き続きシェアを拡大していくと考えられます。
上記でご紹介しました通り、アマゾンの小売業界におけるシェアはこれからも拡大されるでしょうし、利益率の高いAWSからのキャッシュを活用し、将来のための投資を行っています。無料で映画が観られる会員制のアマゾン・プライムのサービスメニューもより充実してきています。
注目されるアマゾンのヘルスケア進出
今後の展開としては、米国においてヘルスケア業界への進出が期待されます。ヘルスケア業界は不況にも強く規模も大きい一方、ヘルスケア関連の事務のプロセスは非効率であり、アマゾンのようなテクノロジーを持った企業には大きなビジネスチャンスがあります。
これまで多角的に成長してきたアマゾンですが、私はここでアマゾンの長期的な成長が止まるとは思えません。金利上昇で売られてきた成長株のアマゾンですが、むしろ、今の下げは長期的な視点を持った投資家にとって買いの機会であると考えています。