米金利で考える米ドル高・円安見通し
8月の米ドル/円は、月初に130円割れ寸前まで米ドル急落となりましたが、その後米ドル高・円安に反転すると、月末には139円まで米ドル高・円安に戻しました(図表1参照)。きっかけは、この間のFRB(米連邦準備制度理事会)の大幅利上げ姿勢が変わらないとの見方が広がったことだったでしょう。
8月10日の米7月CPI(消費者物価指数)発表を受けて米インフレのピークアウト観測が広がると、一時FRBの大幅利上げ姿勢も緩むとの期待が浮上しました。ただ、8月26日のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長発言などを通じ、上述のようにFRBの大幅利上げ姿勢は変わらないとの見方が広がると、米ドル買い・円売りも本格的に再燃し、9月に入ると、7月に記録したこの間の米ドル高値を更新、その勢いで一気に140円の大台も突破するところとなりました。
その米ドル/円ですが、米国の金融政策を反映する米2年債利回りと高い相関関係が続いています(図表2参照)。この関係がこの先も続くなら、米ドル/円の行方は米2年債利回り次第ということになります。
米2年債利回りは、米国の政策金利であるFFレートを参考にして動きます(図表3参照)。現在2.5%のFFレート上限は、21日に予定されている9月FOMC(米連邦公開市場委員会)で3~3.25%までの引き上げが有力視されています。その上で、年末までに4%まで引き上げられるといった見通しが広がっています。
そういった米利上げ見通しを参考に、米2年債利回りがどこまで上昇するかが、米ドル高・円安がこの先さらにどこまで進むかの目安になるでしょう。年末FFレート4%といった見通しの中で、米2年債利回りも4%まで上昇するなら、これまでの米ドル/円と米2年債利回りの関係からすると、米ドル/円は145円まで上昇するといった見通しになりますが、果たしてどうか?
テクニカルに重要な145円
ちなみに、今後の米ドル高・円安見通しの中では、145円という水準が大きなポイントになる可能性がありそうです。なぜなら、足元では円の「売られ過ぎ」、米ドル「上がり過ぎ」といった行き過ぎ懸念がそれほど強くないため、米金利上昇などに対して比較的素直に米ドル高・円安の反応となりそうですが、145円前後では徐々に「行き過ぎ」懸念が高まる可能性があるからです。
例えば、ヘッジファンドなどの取引の目安とされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、先週の段階で4万枚程度の売り越しでした(図表4参照)。一時の10万枚以上から比べて円売り超しが半分以下に縮小しており、これを見る限り、円安値更新が続いている割には、特に円の「売られ過ぎ」が懸念される状況ではなさそうです。
また、米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は、一時プラス10%以上に拡大しましたが、8月初めにかけて130円まで米ドル急落となったところで、同かい離率もほぼゼロまで縮小し、短期的な米ドル「上がり過ぎ」は是正されました(図表5参照)。その後の米ドル/円上昇再燃で、同かい離率はプラス方向に再拡大となりましたが、足元でもプラス5%程度とまだ米ドルの短期的な「上がり過ぎ」が懸念されるほどではなさそうです。
ただし、このまま米ドル高・円安が続き、仮に145円まで達すると、90日MAかい離率はプラス10%に接近する見通しになります。要するに、米ドル高・円安が145円まで達すると、短期的な米ドル「上がり過ぎ」への懸念も高まることになりそうなのです。
90日MAかい離率を、短期の「行き過ぎ」を確認する目安としているのに対し、中長期の「行き過ぎ」を確認する目安としているのは5年MAかい離率。米ドル/円の5年MAは足元で111円程度なので、145円まで米ドルが上昇すると5年MAかい離率は3割を超える計算になります。1980年以降で、同かい離率が3割以上に拡大したのは1998年と2015年の2回しかありませんでした(図表6参照)。
その意味では、米ドル高・円安が145円まで達するということは、米ドルは既に見てきたように短期的な「上がり過ぎ」懸念の拡大に加え、中長期的にもこれまでの「上がり過ぎ」の限界圏に接近することになるわけです。このように見ると、145円という水準は、テクニカルな観点から重要な分岐点になりそうです。
9月の米ドル/円予想レンジは137.5~145.5円
以上を整理しましょう。FRBが大幅利上げの方針を維持し、それを参考にする米2年債利回りに米ドル/円が連れるといった構図が続く中では、当面米ドルの下落は限られ、高値を模索する展開が続く可能性が高そうです。ただ、145円前後になると、米ドルは短期的、中長期的ともに「上がり過ぎ」懸念が高まることから、ちょっとしたきっかけでも行き過ぎの反動から米ドル反落リスクが高まりそうです。
さて、米ドル/円の月間値幅は、3月以降の半年間で、実に4ヶ月で8円以上の大幅となるなど、引き続き記録的に高いボラティリティ、大きく動く相場が続いています。このため、9月の予想も137.5~145.5円中心で想定しました。