2020年から気候変動への対策強化などを求める「脱炭素」関連の株主提案が始まりました。いずれも否決されているものの、3割近く賛成を集めた提案もあり、企業側は無視できなくなっています。この記事では、脱炭素に関連する株主提案について解説します。

脱炭素関連の株主提案が3年間で12件に

7月4日付のオルタナの記事によると、「この6月に各社が開いた株主総会で、環境NGOと機関投資家が5社に対して9件の株主提案を提出した。気候危機への対策強化を求める株主提案は2020年に始まり、3年間で提案数は累計8社12件にのぼった。いずれも否決されたが、半数が20%を超える賛成を集めており「脱炭素」に対する投資家の関心は着実に高まっている」とのことです。

これまで株主提案に原則として反対してきた機関投資家の対応にも変化が見られます。株主提案の賛否を個別に開示することが求められるようになり、より慎重な判断が求められるようになったことが背景にあると考えられます。

企業価値の向上につながるものであれば、株主提案に賛成する傾向が強まっているのです。逆に、提案の内容によっては反対する株主もいます。

「脱炭素」関連の株主提案の始まり

2020年、環境NGO団体「気候ネットワーク」がみずほフィナンシャルグループ(8411)に対し、パリ協定の目標に沿った投資を行うための経営戦略を記載した計画を開示することを求めた株主提案を提出しました。この提案は34.5%という予想以上の賛成率を得ました。

これを機に、株主総会では脱炭素関連の株主提案が注目されるようになりました。2022年はウクライナ危機の影響で、脱炭素を求める株主提案を出しにくい側面もあったかと思います。エネルギー価格の高騰やエネルギー不足、電力不足が深刻化する中で、脱炭素化を急ぐことが、こうした問題をより深刻化させるかもしれないからです。もちろん、長期的にはクリーンエネルギーへの投資や利用の拡大がエネルギー不足の解消につながりますが、短期的に脱炭素化を急ぐと、エネルギー安全保障の確保が難しくなる可能性もあるでしょう。

このような状況下において、2022年も既に5社に対して気候変動への対応強化を求める株主提案が出されました。それらはすべて否決されましたが、30%近い賛成票を集めた議案もありました。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、エネルギーの安定供給が深刻化する中でも、気候変動問題への投資家の関心が引き続き高いことがうかがえます。

最近の主な脱炭素関連の株主提案の事例

それでは、最近の脱炭素関連の株主提案の事例を見ていきましょう。

三井住友フィナンシャルグループ(8316)

6月29日に開催された三井住友フィナンシャルグループ(8316)の株主総会では、オーストラリアの環境非政府組織(NGO)のマーケット・フォースなどが同社に対し、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定に沿った事業計画の開示を求める2つの議案が提出されました。

株主から「石炭火力発電のゼロファイナンスの目標時期(40年)は遅すぎるのではないか」との声が挙がるなか、同社の太田純社長は「刻々と変化する状況を踏まえて柔軟に事業計画を見直し、実践している」と理解を求めました。株主提案は否決されましたが、「パリ協定目標と整合する中期・短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定・開示」は27%の賛成率を獲得しました。

Jパワー(電源開発)(9513)

Jパワー(電源開発)(9513)は6月28日、株主総会で欧州の機関投資家3社(仏アムンディ、英HSBCアセットマネジメント、英マン・グループ)とオーストラリアの非政府組織(NGO)が提出した脱炭素への対応強化を求める株主提案を否決しました。

米国の議決権行使助言会社2社(米グラスルイスと米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービス)が賛成を推奨したものの、全3項の賛成率は18%~26%にとどまり、定款変更に必要となる議決権の3分の2以上の賛成は得られませんでした。

Jパワーへの脱炭素関連の株主提案は、日本初の海外機関投資家による事例として注目されました。株主提案は否決されたものの、脱炭素に向けた短期・中期目標を明記した事業計画の公表を求める提案には、25.8%の株主が賛成しました。提案側は、石炭にアンモニアを混ぜて燃やすなどによって2050年までに発電事業を脱炭素化するという同社の戦略を「経済的にも技術的にも実現不可能」と疑問視していました。

同社の渡部肇史社長は、株主総会で「すでに気候変動への具体的な対応策を策定し、取り組んでいる。今後も情報開示の充実に努める」と述べています。