みなさん、こんにちは。日経平均は参院選後も一進一退で推移しています。政権与党の政治力学の変化が岸田首相の経済政策にどう影響するのかを見極めようということなのでしょう。

引き続き、きっかけ1つで相場は一方向に大きく動きやすくなってきているとの見方を継続し、政府の経済対応に関する発信に注目していきたいと思います。

電力不足に警戒感

さて、今回は「電力」をテーマに採り上げてみましょう。この夏は早々に梅雨明けとなったこともあり、特に関東地方では電力不足懸念が台頭しています。多くのオフィスや店舗では電力の抑制に動き、一部火力発電所の稼働前倒しもあったため、現在はやや落ち着きを取り戻していますが、依然として綱渡りの状況が続いているようです。

そして、現状以上に懸念されているのが冬場の電力供給です。現在の電力供給状況ではとても足りないとの指摘もあり、仮にブラックアウト(発送電システムの全系崩壊による大規模停電)が起こってしまえば、その後の復旧期間を含めて日々の生活や経済に甚大な影響を与えかねません。既に政府と電力各社は冬に向けて早急な対策を講じ始めているものと推察します。

今冬、最大9基の原子力発電所を再稼働

そのような状況を受け、岸田総理は先日、最大9基の停止中原子力発電所の再稼働に加え、火力発電に関しても追加で最大10基ほどの供給能力確保を指示したことを明らかにしました。

この指示だけで問題解決というわけにはなりませんが、懸案であった原発の取り扱いを含め、政府から(節電要請ではなく発電量増に向けての)指針が示されたことは非常に重要なターニングポイントと位置付けます。

しかし、火力発電の増加は脱炭素の流れに逆行するうえ、円安局面下の化石燃料調達増は相当の国富流出とそれに伴うエネルギーコスト上昇を招きかねません。原発再稼働も核廃棄物の処理問題の再燃や膨大な事故・テロ対策コストが迫られることになるでしょう。

東京地裁が先日下した東電旧経営陣への13兆円にも上る賠償命令は経営陣のチャレンジ精神を削ぐ可能性もあります。この矛盾の緩和解消がない限り、当面の電力不足はなんとか凌げたとしても、電力供給システムの脆弱性は払拭できず、日本経済の重要なボトルネックであり続けることでしょう。

問題を抜本解決させる妙案は今のところないのが実情ですが、今後この問題が折に触れて株式市場でも取り沙汰されることになるのではと考えます。

脱炭素も考慮した抜本的な解決策とは

この問題の抜本的な解決策の1つは、当然ながら、再生可能エネルギーとなリます。太陽光発電のみならず、地熱発電や洋上風力発電など、コストや安定性といった点で現時点ではまだ主流となっていない発電方法にも今後徐々に注目が集まる可能性は十分あるでしょう。実際、洋上風力発電は既に総合商社が積極的に手がけ始めているところです。

しかし、やはり気象条件などに発電量が左右される状況では「プラスアルファの電源」にはなってもベースロード電源として機能するには課題も多いのが実情です。現実問題として、こういった再生可能エネルギーは余剰電力を蓄積して発電ボラティリティを平準化できる蓄電池とセットで論じられるべきと考えます。

そこで私は期待先行する再生可能エネルギー以上に、それを安定化させることのできる蓄電池に注目しています。高性能の蓄電池は大手企業が研究を進めているだけでなく、多くのベンチャーも参入しています。

このような競争環境は技術と利便性を飛躍的に向上させる活力となるはずです。蓄電池の進化こそが再生可能エネルギー社会を確立させる最後のピースになると考えます。

カーボンリサイクルにも注目

もう1つの解決策は、カーボンリサイクルです。これは排出された二酸化炭素を資源として活用し再利用するという試みです。

これであれば脱炭素の流れを維持しつつ、化石燃料コスト上昇の影響も緩和することができます。この技術は化学メーカーなどが積極的に取り組み始めた段階ですが、既存の発電設備と発電ノウハウをそのまま利用できるため、再生可能エネルギーへの抜本的な鞍替えを推進するよりも投資効率はおそらく抑制されたものになると考えられます。

日本企業がいち早くこの技術を獲得できれば、特許やライセンス供与といった形で世界的なビジネスに発展する可能性もあるでしょう。日本は既に二酸化炭素の発生を抑制した高効率の火力発電技術に定評があります。これとカーボンリサイクル技術をセットにすれば、ビジネスチャンスとしても大きなものが期待できるかもしれません。

電力の逼迫は深刻かつ複雑な問題です。日々の快適な生活が阻害されるだけでなく、各種製商品の生産活動にも支障が生じる一方、単純に発電量を増やすだけでは持続的な対応とはなり得ません。

本質はどこにあるのか。短期的対応と長期的対応をしっかりと分けて考えることが重要だと思います。