2022年、アクティビストからの株主提案が更に増加
6月11日付の産経新聞の報道によると、6月中旬から本格化する2022年3月決算企業の定時株主総会で、アクティビストから株主提案を受けた企業が過去最多を更新とのことです。
同記事では「大和総研のまとめによると、経営に積極的に関与する『アクティビスト(物言う株主)』から株主提案を受けた企業は(6月)8日時点で36社に上り、過去最多を更新。株主提案全体でも75社と過去最多となっている」と書かれており、2021年の17社からほぼ倍増しています。投資先企業の経営陣に積極的に働きかけるアクティビストによる提案の増加や、NGOなどによる気候変動関連の提案が相次いでいることが要因のようです。
例えば2022年5月、英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(シルチェスター)は京都銀行(8369)に特別配当の実施を要請しました。シルチェスターは京都銀行のほか、岩手銀行(8345)、滋賀銀行(8366)、中国銀行(8382)にも株主提案を行っており、4行の経営陣は反対を表明しています。
また、同じく英国系の投資ファンドであるニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドが、投資先の9企業に自己株式取得を求めるなど、複数の企業に株主提案を行っていることが、株主提案の件数を押し上げているとされています。
アクティビストと経営陣の対立
株主と企業経営の考えは、必ずしも一致するものではありません。株主と経営者の間に緊張関係が生じるのは当然で、それが適度であれば、むしろ健全であると言えます。しかし、アクティビストなど特定の株主による「企業価値の向上」という言葉の裏には、株価を上げたい、あるいは市場で売却できない株式をまとめて売りたいという思惑がうかがえるケースもあります。
アクティビストに狙われやすい企業の特徴は、主に次の2つです。
(1)企業統治(ガバナンス)や企業価値に改善余地がある
(2)エンゲージメント(対話)に応じる姿勢がある
日本企業の経営がアクティビストの活動に影響を受けるケースは増えています。日本企業の多くはPBR(株価純資産倍率)などの株価指標で見ると割安で、コーポレート・ガバナンスに改善の余地があるので、アクティビストのターゲットにされやすいのです。
最近のアクティビストの活動では、資本生産性の向上やコーポレート・ガバナンスの改善や強化などの提案を通じ、企業価値の向上による投資収益の拡大を目指す傾向が見られます。これらは、多くの日本企業が抱えている問題です。また、議決権行使結果の個別開示が定着している現在、日本の機関投資家も、こうしたアクティビストによる株主提案に賛成または反対した理由を問われる時代になってきています。
気候変動関連の提案も増加傾向
NGOなどが気候変動に関する株主提案を行うケースも増えています。上述の大和総研のまとめによると、気候変動関連の株主提案は2022年6月8日時点で6社に対して10議案が提出されており、2021年の4社(4議案)を上回っています。
例えば、脱炭素社会の実現に向けて、日本の環境NGO「気候ネットワーク」やオーストラリアの環境NGO「マーケット・フォース」が、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、東京電力ホールディングス(9501)、三菱商事(8058)、中部電力(9502)の計4社に株主提案を行いました。4社について「環境に関する方針を表明しながら、国内外で化石燃料事業に関わり続けている」と批判し、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に沿った事業計画を策定することを定款に明記するよう提案しました。
2021年6月18日に開催された住友商事(8053)の株主総会では、環境NGO「マーケット・フォース」が、地球温暖化の国際的枠組みであるパリ協定の目標に沿った事業計画の策定と、その開示を求めました。この株主提案は否決され、賛成率は約2割でした。ただ、住友商事は株主提案の取り下げを狙って石炭火力発電からの撤退計画を5月に打ち出しており、この株主提案はある程度意味のあるものだったと言えるでしょう。
定款の変更には、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要ですので、かなり高いハードルです。ですから、定款変更よりも企業の自主的な取り組み強化が狙いではないかと思います。
既に多くの企業が気候変動に取り組んでいる中、エンゲージメント(対話)などを通じて進捗が確認できれば、その企業の対応を支持し、今後もその進捗を確認する機関投資家は多いと考えられます。
アクティビストによる経営陣の報酬制度の見直しや買収防衛策の廃止など、コーポレート・ガバナンスを強化する議案はアクティビスト側が賛成票を集めやすくなっています。一方、増配要求は企業の経営状況などによって賛否が分かれますが、企業が株主総会までにある程度対応しておけば、企業側が支持を得られやすくなります。
アクティビストと企業側のどちらかが支持を得るにしても、今後はますますエンゲージメント(対話)が重要になってくるでしょう。