今年の各資産の値動きですが(6/17時点、配当込み)、世界株式はMSCI世界株で年初来-22%、世界債券はBloombergグローバル総合指数で同-15%と不振です。インフレ懸念や金利上昇を嫌気した株価調整で、株式と債券の分散効果が働かない状況にあります。コロナ禍以降は特に低金利政策とそれを好感する株式物色によって両者の相関が高まっていたために、今年の不振の連動は過剰なリスクオンの巻き戻しも含めた動きと言えます。

この状況下でも堅調なパフォーマンスを示す資産として、まず原油や小麦などのコモディティが挙げられます。原油は46%の上昇、コモディティ全体ではBloomberg商品指数で+28%と、需要の戻りに加え供給制約が市況に追い風となっております。また他にも堅調な資産がヘッジファンドです。Bloombergが集計するヘッジファンド指数は年初来5月末まで-4%と同期間の世界株-13%や世界債券-11%と比べ相対的に堅調です。

同指数は戦略上5つに分類され、年初来の値動き(5月末まで)は株式ヘッジ(株式ロングショートなど株を用いた戦略)-8%、クレジットヘッジ(同クレジット戦略)-4%、イベントドリブン(企業に関わるイベントから生じる価格変化を狙う戦略)-4.8%、レラティブバリュー(割安/割高判断を買い/売り両建てで保有して収益を上げる戦略)-1.6%、そしてマクロ戦略(政治・マクロ調査分析に基づき幅広い金融市場において価格の歪みやトレンドを見出し収益を上げる戦略)+5.6%と、株式系は苦戦も特にマクロ戦略が好調です。

インフレ等の構造変化を受け、また景気を取り巻く状況変化が激しい中で、俯瞰的な調査による複数の資産クラスへの資産配分やコモディティの活用、値動きのトレンドを見極める投資戦略が奏功しています。同時に相場変動時に分散投資が安定的な収益獲得に有効であると改めて認識されます。

ヘッジファンドや不動産・プライベート投資を含むオルタナティブ運用は、分散投資効果を期待して企業年金ではポートフォリオの12%程度が配分されています(2020年度、企業年金連合会)。米国ではより盛んで、進んだ投資家として知られるイェール大学基金ではオルタナティブ資産への配分が1985年時点の11%から2019年には77%にまで拡大しています。投資家の運用目的や国ごとの規制、商品ラインアップの違いから単純比較は適さないものの、国内の投資信託にもマクロ戦略によるアセットアロケーションファンドなどオルタナティブ商品が増えてきており、今後の市場拡大が期待されます。

オルタナティブ資産の堅調さを紹介しましたが、調整する海外資産(円安の恩恵は受けますが)に対し、日本株やJ-REITは相対的に堅調です。両者の今年の値動きは類似しているものの、株式はコロナ前水準を上回る一方、J-REITは未だ上回らず出遅れており、その要因としてはホテルやオフィスの軟調さが挙げられます。指数全体のNAV倍率(時価評価した純資産価値に対する価格の割安度で株のPBRに似た指標)は10年平均を下回る割安域にあり、またREITにとってネガティブとなる金利上昇の本格化には時間を要するとみられる中で、選挙・経済再開・外国人観光客の戻りといったカタリストが出遅れセクター物色や全体の割安感の解消に働くか注目されます。