20年前との類似

米ドル高・円安が、2002年以来20年ぶりに135円を目指す動きとなっている(図表参照)。当時の米国は共和党・ブッシュ政権。金融市場ではITバブル崩壊の株安が広がっていた。そんな株安を尻目に起こった米ドル高・円安には、最近と類似点、相違点それぞれあった。

【図表】米ドル/円の推移(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

類似点は、米国の通貨政策だろう。現在の米国では、インフレ対策から通貨高容認策をとっていると見られているが、2002年当時の米政権も米ドル高容認政策をとっていた。ただ政策目的は、今回と20年前では全く違った。

2001年から始まったブッシュ政権において、経済政策を担当したリンゼイ大統領補佐官は「親日派」として知られた。そんなリンゼイ補佐官は、デフレに転落し低迷が続いた日本経済を円安で支援するため、そして外国資本による米経常赤字ファイナンスのために米ドル高が有効との判断から米ドル高容認政策を主導したのだった。

こういった中で、ブッシュ政権発足直前には110円程度だった米ドル/円は、ITバブル崩壊で米国株安が広がる動きを尻目に2001年3月には126円台まで上昇。2001年9月11日、米同時多発テロ事件発生を受けて、米ドル/円は一時115円まで急落したものの、その後は改めて米ドル高・円安が再燃した。そしてこの2001年9月115円から2002年1月135円までの米ドル高・円安を演出したのは日本の金融・為替政策だった。

21世紀に入る前にデフレに転落した日本経済は、2000年からのITバブル崩壊に伴う世界的な株価暴落に巻き込まれた結果一段と低迷。こういった中で、日銀は2001年1月に史上初めて量的緩和(QE)を決定した。ただそれでも、日本経済復活の手掛かりがつかめない中で、新たなQEとして注目されたのが、日銀が日本国債だけでなく、外国国債も購入するという考え方だった。

日銀が、米国債などを購入することで資金を供給するこのQEは、米ドル買いを伴うことで、二重の円安誘導効果が期待された、ある意味では「究極のQE」だった。ただこれに対して財務省が強く難色を示した。日銀による米ドル買いは、財務省が主管していた為替政策を混乱させる懸念があると考えたためだった。

ではこの外国債購入といった「究極のQE」実現を、どうしたら阻止できるか。そこで浮上したのが「口先介入」による円安誘導だった。一部報道で、財務省が複数の有力な為替関係者に、「130円を超える円安になりそう」といった「相場見通し」を伝えているといった内容が流れた。自律的に米ドル高・円安が進むことで、割高な米ドルを買う必要が出てくる米国債など外国債購入という「究極のQE」実現を回避するとの狙いと見られた。こうした中で、2002年1月にかけて米ドル高・円安は135円まで進んだのだった。

20年前との相違

さて、そんな2002年以来20年ぶりに、今月に入り135円を目指す米ドル高・円安が広がっている。20年前と今回で大きく異なっているのは、20年前の日本経済はデフレが懸念されていたのに対し、足元では逆に物価の上昇、インフレが懸念されているということだ。この結果、20年前はほとんどなかった「悪い円安」批判だったが、今回は輸入物価上昇をもたらす「悪い円安」批判となっている。

また、インフレ対策の観点から、米政府の米ドル高への期待は20年前より強そうだ。日本経済にとっては悪い面も目立つ円安ながら、米国のインフレ動向次第では、20年前と異なり、135円からさらに米ドル高・円安が進む可能性も秘めた状況が続いていると言えそうだ。