親の介護は多くの方が直面する問題です。今すぐに介護が必要な状態でなくとも、将来に備えて、心づもりをしておくことをお勧めします。筆者の介護(遠距離介護4年・在宅介護8年)、看取りまでの経験をもとに、親の介護を安心して行うための準備についてお伝えしたいと思います。第2回目のテーマは、「親について知っておくべきこと」です。
今は元気に暮らしている親も年月を重ねれば、介護が必要になるかもしれません。まずは親について知ることから始めてみませんか。また、親の介護を誰が中心となって行うのか、兄弟姉妹や夫婦で話し合っておくことも大切です。介護は突然訪れます。親や周囲の状況を予め把握しておくと安心です。親の意思も聞いておけると良いですね。今回は、親について知っておくべきこと、元気なうちからやっておいた方が良いことを中心にご紹介します。
親の介護が始まる前に親子で話し合っておくべきこと
近年、「終活」が脚光を浴びています。子への負担を抑えるため、自身で生前に準備を進めようというものです。代表的なものにエンディングノートがあります。自分の人生の歴史や人間関係、財産の状況や介護・葬儀に関する要望などが記せます。
エンディングノートには、親が元気なうちに確認しておくべき事柄が予め整理されています。単に書くことだけを勧めると「死ぬのを待っているのか」「私を追い出すつもりなのか」と険悪になる場合も想定されます。親だけでなく子世代も、いつ何が起こるかわかりません。「自分も書くから一緒にやろうよ」くらいの気軽さでトライしてみてはどうでしょうか。遺言書ではないので、法的な拘束力はありません。全部漏れなく書き込もうと躍起にならず、書けるところから埋めてみましょう。
様々な種類のエンディングノートが販売されていますが、それらを購入しなくとも、お持ちのノートに下記の項目を参考にまとめておくだけでも良いと思います。
親子で確認しておくべきポイント
(1)親の財産情報(貯蓄・不動産・投資・年金額・生命保険など)
(2)保険証、通帳、印鑑、保険証書、不動産の権利書などの保管場所
(3)どこで介護を希望するのか(施設、在宅など)
(4)延命治療(胃瘻や人工呼吸器の装着など)やお墓、納骨の希望
(5)親戚などの連絡リストの作成
(6)医療の情報(かかりつけ医、既往歴、持病、服薬など)
(7)食べ物の好き嫌い
(8)好きな飲み物(水分摂取量が低下したときのため)
(9)好きな音楽(聴くと気持ちが和らぐ曲、好きなアーティストなど)
(10)生まれてからの本籍地(戸籍がある市区町村)
認知症を発症すると、上に挙げたような事項の確認が難しくなります。食べ物の好き嫌いなどを知っておくと、食欲がなくなって何か口にしてほしいときなどに役立ちます。財産情報は、どれだけ介護に費用をかけられるのかによって受けられる介護サービスの種類や回数も変わってくるので、とても大切な情報です。
生まれてから亡くなるまでの本籍地は相続の手続きに必要となります。貯蓄額や生命保険などは話題にしにくい場合や、親が拒む場合もあります。そんなときは、郵便物を定期的にチェックして、どこの銀行や証券会社、生命保険会社と取引があるのかという情報だけでも控えておくと良いでしょう。
親が「施設を希望する」と記載していても、子に迷惑をかけたくないから…と気を遣っている場合もあります。記載してあることと本心が違うこともあります。親が尊厳死を希望していたとしても子が延命を望む場合もあります。あくまでも希望であり必ずしもその通りにならないこともあります。本人の希望、家族の希望、それを含めてどうするのかが大切だと思います。
兄弟姉妹や夫婦間で事前に介護の役割分担を
兄弟姉妹が複数いる場合は、介護に関する会議を開いて、一度、役割分担や介護にかけられるお金について話し合っておきましょう。親の介護で揉めると相続でも必ずと言ってよいほど揉めます。親の介護費用は親のお金で賄うのが基本です。今や、家族だけでは介護が難しい時代です。それならば、介護の専門職を頼ることも必要で、そのためにお金を使うのは当たり前のことなのです。大切なのは、どれだけ使えるのかを把握して自分たちで介護サービスを選択することです。
兄弟姉妹や夫婦で確認しておくべきポイント
(1)キーパーソン(介護サービス事業所や病院との契約について対応の窓口となる人)、主たる介護者(直接、身体的なサポートをする人)は誰なのか
(2)どの程度、介護に時間を割けるのか(月単位、週単位、日単位など)
(3)各自ができること(費用や介護の援助など)
(4)子の配偶者の協力の可否
一人っ子の方は、介護を自分事として考える覚悟をお持ちかもしませんが、兄弟姉妹が複数いる場合は、「誰かがやるだろう」とお互いが楽観的に考えていることがあります。「長男が介護するだろう」「いや、妹がやるだろう」「同居の次男夫婦が介護するだろう」など、場合により、押し付け合いになるかもしれません。そのため、話し合いの場に親は同席しない方が良いかもしれません。話し合いの内容は後日忘れてしまわないよう必ず記録をとっておきましょう。
親の健康寿命を意識し、できることを一緒にやっておく
厚生労働省の定義によると、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」となっています。親には元気なうちに人生を楽しんで色々な経験をしてほしいと思います。旅行が好きならば、旅行を計画する。食べることが好きならば少しくらい奮発してホテルのディナーを予約する。ごひいきの歌手がいるならコンサートやお芝居に行く。親だけでは気おくれするようなら、自分も一緒に楽しむと良いでしょう。一流の芸能人の生歌や努力を目の前にすると自分も頑張ろうと思う勇気をもらえることも多くあります。
介護の真っ只中や認知症を患っていても諦める必要はありません。私は親が認知症、要介護3のとき、2人でクルーズ旅行に出かけました。親は自分で歩くことができたので行方不明にならないか心配でしたが、ひとり歩きしても所詮は船の中だし…と前向きに考えていました。
また、結婚式に一緒に参加したとき、母は料理やデザートが余程おいしかったのか、他人の分まで手を伸ばして、フォアグラ3皿をたいらげました。気に入らないものや安い肉には決して口を開かない母でしたがとてもおいしそうに食べていました。できるときに、できることをやっておくと後々、良い思い出となりますよ。