米ドル安・円高リスクは米金利低下次第か

先週の米ドル/円は、130円前後といったこの間の米ドル高値圏で一進一退の展開となりました(図表1参照)。破竹の勢いで展開してきた「止まらない円安」、「怒涛の円安」も、さすがに息切れの兆しが出てきたということなのでしょうか。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ほんの2ヶ月程度で、15円以上も一気に米ドル高・円安が進んだことで、短期的な「行き過ぎ」の可能性を示すシグナルが増えていることは事実です。例えば、米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率は一時プラス10%以上に拡大しました(図表2参照)。また、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り超しは10万枚以上に拡大しました(図表3参照)。

【図表2】米ドル/円の90日MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成
【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2015年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

これらは、米ドルの短期的な「上がり過ぎ」、円の「売られ過ぎ」といった懸念が拡大している可能性を示しています。これらが、「怒涛の円安」の足踏みの要因になっている可能性はあるでしょう。

では、「足踏み」にとどまらず、大きく米ドル安・円高に戻すかと言えば、まだそのイメージは描きにくいというのが正直な感想です。例えば、米ドル/円には、かつて米国株と一定程度の順相関の関係がありました。その関係が続いていたなら、先週にかけて米国株が比較的大きく下落した中で、米ドル安・円高に大きく戻してもおかしくなかったわけですが、そのような動きはほとんど見られませんでした(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円とNYダウ (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米国株との順相関の関係、とりわけ「株安(リスクオフ)の円高」といった関係が2022年に入り大きく崩れました。そのことは、その後の「怒涛の円安」をもたらした大きな要因だった可能性がありますし、米ドル安・円高に大きく戻すイメージが描きにくくなった理由の1つです。

株安でも円高にならなくなった中では、米ドル安・円高をもたらす要因はほとんど米金利低下のみといった状況になっています。その米金利、例えば米10年債利回りの90日MA(移動平均線)かい離率は、最近にかけてプラス40%以上に拡大、経験的には短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まっています(図表5参照)。

【図表5】米10年債利回りの90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

先週、注目されたFOMC(米連邦公開市場委員会)を受けて、米金利が大きく低下すると、それに連れる形で米ドル/円も128円台後半まで反落する場面がありました。これはまさに、FOMCといった注目イベントの通過を受けて、米金利の短期的な「上がり過ぎ」の修正が本格化した結果と考えられます。

今週も、水曜日(5月11日)に米国の4月のCPI(消費者物価指数)、木曜日(5月12日)にPPI(生産者物価指数)の発表が予定されています。いずれも物価上昇率は前回を下回ると予想されているため、それを受けて米金利の短期的な「上がり過ぎ」修正がさらに広がるか、それが米ドル安・円高リスクにおける最大の焦点ではないでしょうか。

米国株の下落は続くのか

最後に、米ドル安・円高への影響が低下したとは言うものの、先週にかけて急落が相次いだ米国株について少し確認したいと思います。米国株の中でも、相対的に下落が目立っているのはハイテク・グロース銘柄の構成割合の大きいナスダック指数です。ナスダック総合指数の高値からの下落率は既に25%程度まで拡大してきました(図表6参照)。

【図表6】ナスダック総合指数の推移(2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

こういった中で、ナスダック総合指数の90日MAかい離率はマイナス10%以上に拡大してきました(図表7参照)。その意味では、短期的な「下がり過ぎ」の懸念が拡大しているため、そろそろ下落が一息つく可能性もなくはないのかもしれません。ただ、別の指標で見ると、株安の大きな流れが終わったのかは、まだまだ微妙ではないでしょうか。

【図表7】ナスダック総合指数の90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ナスダック総合指数/NYダウの相対株価は、ITバブルと呼ばれた2000年以来となる0.45倍から、先週はついに0.37倍を割れるところまで低下してきました(図表8参照)。これは、この間の株安の主因が、NYダウに対するナスダック指数のITバブル以来の記録的割高の是正だった可能性を示しているでしょう。構成銘柄との関係で、NYダウをバリュー株、ナスダック指数をグロース株とすれば、バリュー株に対するグロース株の記録的な割高の是正ということになります。

【図表8】ナスダック総合指数/NYダウ相対株価(1990年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ただ同相対株価は、「コロナ・ショック」前の0.3倍程度はまだまだ大きく上回っています。仮に、同相対株価が0.3倍へ一段と低下するなら、NYダウが先週末の終値で横ばいとした場合でも、ナスダック総合指数は1万ポイントの大台割れへ一段と下落するといった計算になります。

以上で見てきたように、最近にかけての米国株の下落拡大の根底にあるのが、「コロナ・ショック」後の金融緩和などを受けた、ITバブル以来のグロース株の割高を是正する動きということなら、それはまだ終わりではない可能性があるでしょう。また、そういった中で、先週FOMCがインフレ対策から利上げ幅を0.5%に拡大した影響も注目されるところです。