円安阻止の為替介入を考える
日本経済への円安の悪影響を懸念する声が増えている。では、そういった声を受けて、日本政府が円安阻止行動を具体化するのはいつになるだろうか。円安阻止政策とは、基本的には、利上げと円買い介入だ。
今回はその中で、円安阻止の米ドル売り・円買い介入の可能性について考えてみる。結論的に言うと、過去の為替介入パターンから考えたところ、円安阻止の米ドル売り・円買い介入は、早ければ130円前後から実現する可能性があるのではないか。
日本の通貨当局である財務省は1991年から為替介入実績を公表している。それによると、円買い介入は1991年5月~1992年8月、1997年11月~1998年6月の2回だった。一方で円売り介入は、1993年4月~1996年2月、1999年1月~2000年4月、2002年5~6月、2003年1月~2004年3月、2010年9月~2011年11月といった5回だった。
念のため、円売り介入は、2000年9月と2001年9月にも短期的に行われたが、これは前者の場合はユーロ安阻止の協調介入への参加、そして後者は、いわゆる「9・11」、米同時多発テロ発生を受けた米ドル防衛協調介入への参加だったので、円高阻止介入のケースからは除外した。
以上の前提から、円買い、円売りの介入開始を、それぞれ前者は赤色、後者は黄色でマークしてみたのが図表1だ。これを見ると、円買い介入と円売り介入の開始水準は、大まかに見ると130円を少し下回ったところが境目となっていた。
要するに、過去30年の為替介入の実績は、その当時の政治・経済状況を受けながらも、円安阻止介入は米ドル/円が130円を大きく下回っていた中では実施せず、一方円高阻止介入は130円以上では実施しないことが基本だったわけだ。
ただ、経済状況が変化する中で、30年前の130円と足元の130円を同じとして議論するのは雑過ぎるだろう。そこで、米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率と為替介入の関係を見たのが図表2だ。
これを見ると、米ドル/円の5年MAかい離率が±20%以上に拡大したのは、財務省が為替介入実績を公表した1991年以降では4回あったが、このうち3回は、かい離率が±20%以上に拡大する直前から介入が始まっていた。
ちなみに、足元の米ドル/円の5年MAは110円程度。従って、それを2割上回る水準は、132円といった計算になる。過去のパターン通り、5年MA±20%以上に拡大する中で為替介入が始まるなら、130円前後で最初の米ドル売り・円買い介入が行われるといった見通しになるだろう。
1991年以降で、米ドル/円の5年MAかい離率が±20%以上に拡大した4回のうち、唯一為替介入がなかったのは2015年6月にかけて125円まで円安が進んだケースだったが、この当時は「アベノミクスの円安」として、円安はプラスとの評価が強かったためで、一方的な円相場の動きとしては例外といった位置付けだったと考えられる。
以上、過去の為替介入パターンから、今回の円安阻止介入出動のシナリオについて考えてきた。上述の2015年にかけての局面と異なり、「悪い円安」との声が強い中では、参議院選挙を控えているといった政治状況なども考えると、円安阻止行動の具体化として円買い介入が実現する可能性はありそうだ。
ただ、これまで円買い介入出動は、必ずしも円安終了と一致したわけではなかった。その意味では、かりに130円前後で予想通りに円買い介入が実現しても、それが円安の終わりかと言えば違いそうなので、これについては、また別のレポートで説明したいと思っている。