先週、米金融市場ではリスク回避の流れが鮮明となり、安全資産としての金に買いが集まる

先週(2月7日~11日)のニューヨーク市場の金価格(金先物相場、以下NY金)は週間ベースで34.3ドル高、1.9%の上昇となった。

1,808ドルで週初に取引を開始した金は、前週と異なり取引時間中を含め1,800ドル割れを見ることなく堅調に推移した。週末2月11日に至る6営業日連騰は、2021年11月4日以降の7連騰に次ぐものとなった。週央に発表された1月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.5%上昇と市場予想比に対し上振れたことから金に買いが集まった。

しかし、同時に米連邦準備制度理事会(FRB)によるインフレ抑制の金融引き締め強化が意識され、米長期金利が2%超に急騰し、金価格の上値を抑えた。金市場内でファンドなど短期筋が意識する1,833ドルの節目は突破し、心理的節目の価格1,850ドル超えが期待されたが、この段期では米長期金利の上昇に阻まれるかたちで突破はならなかった。

しかしそれも金市場にとって外部要因と位置付けられる地政学リスクの高まりを手掛かりに、週末2月11日に1,850ドルを上抜くことになった。この日のNY時間の午後に入り徐々に騰勢を強めた金は、NYコメックスの通常取引終了後の時間外の取引時間帯に、まとまった買いを集め1,860ドル台まで水準を切り上げた。

ロシアによるウクライナ侵攻が近いとの見方が広がり、米金融市場でリスク回避の流れが鮮明となり安全資産としての金に買いが集まった。

清算値として規定されるNY金の週末の終値は1,842.10ドルとなり冒頭の週足上昇率の1.9%はこの価格を基準にしている。しかし、時間外の急伸で実質的には1,860.60で週末の取引を終了したことになる。一時1,867.40ドルまで買われたが、取引時間中の高値としては2021年11月19日以来約3カ月ぶりの水準となる。

米長期金利上昇に耐性示すも2%超で売られた金

先週も金をはじめ株式など市場横断的に影響を与えたのは米国債金利の動きだった。2月4日発表の1月の雇用統計の雇用者増加数が予想比上振れとなって以降、米10年債利回りはじめ長短問わず水準を切り上げた米国債利回り。先週は8、9日の両日に渡り1.9%台後半まで上昇したにも関わらず、この時点で金は上昇基調を続け一定の耐性を示した。

2月10日のCPIとその後のFRB高官であるセントルイス連銀ブラード総裁の発言を受け、一時2.057%と2019年8月1日以来の水準まで上昇。2%突破となると金価格の上値を抑えるとともに、株式市場の売り材料となった。

ところが、2月11日の取引ではウクライナ情勢の緊迫化から米国債に安全資産としての買いが入り、価格は急騰し利回りが急低下。この日は午前から2%台で推移、お昼前には2.064%と前日の水準を上回るところまで上昇した。

その後、米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)のロシアによるウクライナ侵攻が「いつ始まってもおかしくない」との発言に加え、オースティン国防長官が米兵3,000人の追加派兵を発表したこともあり、安全資産として買われ、利回りは1.913%に急低下した。この日は1.943%で終了となった。

NY金にとっては、長期金利の急落が買い要因と言えなくはないが、やはり安全資産としての金という観点では、古くから指摘される「有事の金」の側面が顔を出すことになったといえる。

FRBの引き締め前倒し観測と金市場

インフレ加速がデータで示されたことを受け、FRB関係者の引き締め前倒し意向が市場を揺らしている。先週も1月の米CPI発表後に結果を受けメディア・インタビューに応じたセントルイス連銀のブラード総裁が、自身のタカ派姿勢を「大幅に引き上げた」として、7月1日までに1.00%(100ベーシスポイント、bp)の利上げが実施されることを望むと伝わった。

3月以降、7月までに米連邦公開市場委員会(FOMC)は3回予定されており、1%まで引き上げるとすると0.5%(50bp)の利上げを交えることになる。タカ派で知られるブラード総裁だが、以前から唱える引き締め方向の政策スタンスが、2021年11月以降1月まで3回のFOMCに反映された経緯もあり、注目度上がっているFRB高官の1人でもある。

同総裁は、現時点で金融当局者は次回3月のFOMCの討議にて政策内容の方向付けはされるとの意向を示しながらも、定例会合以外での行動を検討する可能性も示唆したと伝わる。

臨時会合の開催も視野に入れていることを意味するが、先週はサマーズ元米財務長官も同様の発言をして注目された。これはインフレ加速のデータを受けたもので、臨時会合を開催して量的緩和(QE)プログラムを終了させ、インフレ抑制への決意を強調するべきだとしている。「インフレ率が7.5%に達し、労働市場は過去数十年で最もひっ迫しているのに中央銀行はなおバランスシートを拡大させている。全く馬鹿げている」と述べたとされる。

こうした一連のFRBによる引き締め策の前倒し観測だが、ここまでの流れの中で金市場では一定の織り込みが進んでいる。すでに市場では年内7回の利上げ見通しや、FRB保有資産の縮小7月着手見通しも指摘された際に警戒感を高めたファンドが買い建て(ロング)の手じまい売りを進めている。さらには売り建て(ショート)を積み増したことで、1月下旬にかけて1,800ドル割れまで急落した経緯がある。

先週末に発表された米商品先物取引委員会(CFTC)のデータでは、2月8日までの1週間でNY金先物市場での大口投機家(ファンド)のポジションは、重量換算(オプション取引を除く)でネット45トンのロングの増加となっていた。

売り持ちの買戻し(ショートカバー)が増加の主体となっていることから、FRBの引き締め前倒し観測で作ったショート・ポジションの手じまい(ショートカバー)を早くも進めたとみられる。ここにきてウクライナ情勢の緊迫化も足元でショートカバーを促しているものとみられる。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週の展望:ウクライナを巡る地政学リスクによる値動きは短期間で収束する可能性も。NY金は1,850ドルを超えるか

今週は、ウクライナをめぐる動きが金市場の材料として急速に意識されることになりそうだ。先週は今週にもロシアによる侵攻が開始される可能性まで取りざたされたが、2月14日は国連安全保障理事会において、ミンスク合意に関する会議が開催予定である。

2月15日にはドイツのシュルツ首相がモスクワを訪問するなど外交日程が組まれている。国際紛争に際して上昇した過去の経緯から金には「有事の金」との捉え方がある。確かに地政学要因に反応した上昇は見られるが、その際の値動きは短期間で収束することが多い点に注意したい。ウクライナ情勢は言うまでもなく流動的で、値動きは見通しにくい。

ただし、NY金は2021年11月17日の終値1,870.20ドルの上値の節目の突破を視野に入れていることから、今週は戻り高値の更新があるのか否かが注目点になる。

2月16日に発表される1月FOMCの議事要旨は、FRBが市場とのコミュニケーションツールとして使うことも予想され注目される。また同日の1月の米小売売上高もインフレと個人消費の観点から金市場の関心事となっている。大阪取引所の円建て先物価格については、米ドル建て金価格の上昇に伴い2020年8月以来のグラム当たり7,000円接近が見られる可能性がある。

しかし、1,850ドル超のNY金には売りも控えることから、現段階で持続性に疑問が残るため注意が必要と思われる。