先週の米国株式市場は主要株価指数が下落、石油関連企業と防衛関連企業が上昇
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先週S&P500は1.82%、ナスダック総合は2.18%それぞれ下落して終わりました。最初の3日間マーケットは堅調に推移し、S&P500は1.93%、ナスダックは2.78%上昇していたにも関わらず…です。せっかくのポジティブな流れを変えたのは引き続きインフレであり、地政学リスクが現実のものとなるかもしれないという展開でした。
2月10日(木)の朝方発表された消費者物価指数(CPI)は、市場予想の7.2%を上回り、前年同月比7.5%の上昇と、1982年以来40年ぶりの大幅上昇となりました。これを受けて10年債利回りは一時2年半ぶりに2%を超え、3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では50ベーシスポイント(0.5%)の利上げの観測が高まりました。
また、米セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁が7月までに100ベーシスポイント(1%)の大幅な利上げを支持すると発表したことで市場の下げに拍車をかけました。
2月11日(金)になると、ウクライナ国境付近でのロシア軍の動きが活発化し、ホワイトハウスのサリバン米大統領補佐官は、ロシアがウクライナ侵攻をいつ開始してもおかしくないとの見方を示しました。
これを受けて、WTI原油価格先物は2月11日に一時、前日比5ドル近く上昇、1バレル94.66ドルを付けました。94ドル台を付けたのは2014年9月末以来のことです。現在の原油の在庫は数年ぶりにタイトな状況です。もしロシアがウクライナに侵攻すると、欧米がロシアへの経済制裁に動き、ロシアから欧州などへの原油や天然ガスの供給が滞り、需給がひっ迫するため、原油価格は100ドルを超えるだろうと見られています。
これにより2月11日の株式市場ではシェブロン(CVX)やシュルンベルジェ(SLB)のような石油関連企業が上昇しています。また、ノースロップ・グラマン(NOC)やロッキード・マーチン(LMT)などの防衛関連企業の株価も有事を連想する動きをとり上昇しました。
現在のウクライナ情勢は1962年のキューバ危機の再来か
ウクライナ情勢については、欧州の国々や米国とロシアとの外交的な交渉が行われています。最初に拳を上げたプライドの高いロシアがここで妥協をするためには、ロシアが満足する形で解決しなければなりません。北京ではオリンピックが行われています。もし軍事的な衝突を起こすのであれば、オリンピックに世界の注目が集まっている間に行う方がロシアにとっては都合が良いはずです。
実際、ロシアは2008年にグルジア北部へ侵攻した歴史がありますが、この時は中国で夏季オリンピックが開催されていた最中のことでした。また、西側諸国がロシアのウクライナへの侵攻の可能性が高いと考えるのは、ロシアは2014年にウクライナの領土であったクリミア半島を併合してしまったという事実があるからです。
ロシアの副外務大臣は、現在の状況をソビエト連邦と米国が一歩間違えれば核戦争となっていたかもしれなかった1962年のキューバ危機に例えています。
もし、ロシアがウクライナに侵攻すれば、株式市場への影響はどうなるでしょうか。このような事態は米国株式市場の歴史をさかのぼってみると、限定的ではないかと考えられます。最終的に株価を動かすのは企業業績だからです。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が現実のものとなってしまうと、新たな問題を作ってしまう可能性があります。ロシアにとってウクライナはかってウクライナ・ソビエト社会主義共和国と呼ばれており、旧ソビエト連邦とは非常に近い関係にありました。もし、ロシアがそのような背景をウクライナ侵攻の理由の1つとするとするならば、バイデン米政権による牽制・抑止力が効かないと見た中国が台湾に対する態度をさらに強気にさせる可能性があるのではないかと考えています。
個人的な話ですが、たまたま私の家ではこの週末、日本の戦争を経験した92歳の義理の父親から当時の話を聞く機会がありました。ロシアによるウクライナへの侵攻が起きると、罪のない人々の命が失われることは避けられないでしょう。そのような不幸なことが起きないことを強く願いたいと思います。