2021年、相続税・贈与税の一体化が注目され、週刊誌など様々なメディアでセンセーショナルなタイトルの記事が数多く掲載されました。
きっかけとなったのは、2020年12月に発表された2021年度税制改正大綱です。「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的にとらえて課税する観点から(中略)資産移転の時期の選択に中立的な税制に向けて、本格的な検討を進める」と、相続税と贈与税を一体化する方向性が示されたことによるものです。
暦年贈与が富裕層の節税対策となっている背景
相続税対策の中でも代表的な手法である暦年贈与が利用できなくなるのでは…という声が飛び交いました。暦年贈与は、相続税対策の一丁目一番地、野球でいったら大谷翔平、サッカーでいったら三浦知良(キングカズ)くらいの存在です。どのくらい重要な対策かご理解いただけるかと思います。
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間の贈与に対して基礎控除額という110万円の非課税枠を控除して、この額を超えた金額に贈与税を課税する制度です。この暦年課税制度を利用して、将来課される相続税率より低い贈与税率で次の世代へ生前贈与したり、基礎控除額の範囲内で贈与税負担なく生前贈与することで、財産を減らし相続税の負担を軽減する方法が、富裕層の代表的な相続税対策としてとられることがありました。
この相続税対策は、相続税と贈与税の体系が統合されていないことから、次世代への財産移転が相続によるのか、生前贈与によるのかで、異なる非課税枠や税率が適用され、相続と生前贈与で税負担に差異が生じることを利用しています。一定の富裕層にとってはこの対策により、税負担が相当軽くなることから、格差の固定化を防ぐ観点で制度改革が必要であるとの意見がありました。
そこで相続税・贈与税の制度設計が「一体的」となるよう、かつ、相続であろうと贈与であろうと税負担に差異が生じないよう財産の移転時期に対して課税が「中立的」となるように是正しよう、というのが前述の税制改正大綱のコメントの意図であると考えられます。
日本の相続・贈与に関する税制を他国と比較してみると
ではどのような方向で改正が進んでいくのでしょうか。そのヒントが2020年税制調査会における説明資料にあります。この資料において、米国、ドイツ、フランス、日本の相続・贈与に関する税制比較がされています。
資料の中で、米国では贈与税と遺産税(相続税)が統合されていて一生涯の累積贈与額と相続財産額に対して一体的に課税されています。ドイツは死亡前10年、フランスでは死亡前15年の贈与と一体的に相続税が課税されています。
これに対して、日本は、暦年贈与制度を前提とすると死亡前3年間の贈与のみ相続財産額に加算して相続税を課税する制度となっており、次世代への資産移転が贈与なのか相続なのか、その時期により税負担が異なる仕組みとなっていることを示しています。
私見となりますが、このような資料による制度比較、税改正大綱による記述から鑑みるに、相続財産に取り込む生前贈与の期間を現行の3年から、10年ないし15年程度に延長される流れができつつあるように想像しています。
相続・贈与税の一体化は一旦見送られるも改正に向けた方向性は継続
このような流れの中、2021年12月10日、2022年度の税制改正大綱が公表されました。相続、贈与の一体課税について、税制改正が行われるのか注目されていましたが、改正は見送られました。一方で、2022年度においても前年2021年度の大綱中の「本格的な検討を進める」という表現は残されており、改正に向けての方向性は変わっていません。
なお暦年贈与のほかにも、2022年度税制改正大綱中、下記の贈与税非課税措置について「何らの税負担も求めない制度」と否定的に表現され「不断の見直しを行っていく必要がある」とされています。
・教育資金贈与
・結婚、子育て贈与
・住宅取得資金贈与
これについて2022年度の改正から影響が出ており、住宅取得資金贈与は制度の期限が2021年12月であったところが2023年12月まで延長されたものの、非課税枠が最大1500万円あったところ、最大1000万円と大きく縮小されました。
ここまで見てきたように、相続、贈与の課税方法について、大きく変化する過渡期にあると思われます。毎年の税制改正により非課税枠などの金額が縮小されたり、制度の期限が延長されなかったり、ということが頻繁におこる可能性があります。
相続税の対策を具体的に考えている方は、非課税枠はいくらあるのか、どの制度がいつまで適用されるのか、常に情報を更新していく必要があると思います。