事態が好転する兆しが複数見られる。市場はそれを見落としているのか、無視しているのか、反応していない。

 1.まず、コロナの状況である。オミクロン株の感染が凄まじいペースで広がっており、一見、バッドニューズに思えるが、見方を変えれば、そう悪い話でない。第一に、オミクロン株は、感染力は強いが重症化しにくいという報告が多数、あげられている。そうであれば、早くにピークアウトして病床ひっ迫などは避けられるし、行動制限も必要ない(実際、英国などはそうである)。オミクロンがピークアウトすれば、コロナ禍はパンデミックからエンデミック ‐ すなわち、インフルエンザのような局所的な流行の感染症 ‐ になるという見方が複数指摘されている(南アの研究者やビル・ゲイツ氏など)。

 2.次にインフレが沈静化する兆しが出始めた。1月13日付の日経電子版NQNスペシャルは「物価高に変調の芽」と題して、昨年12月の中国の消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)が、いずれも市場予想を下回ったことを伝えた。エジプトのCPIは前月比0.1%低下。インドも市場予想には届かなかった。記事はその背景として食料価格の上昇加速が止まってきたことを指摘している。

これは今週、市場で大きな注目を集めた米国のCPIでも見られたことである。総合CPIは前年同月比で7%上昇と1982年以来の高い伸び率だった。これは市場予想に一致した。前月比では0.5%上昇と11月の0.8%上昇からは伸びが鈍化した。続いて発表された12月の米生産者物価指数(PPI)は予想を下回る伸びにとどまった。Bloombergは、エネルギーと食品の価格低下が指数を押し下げ、コスト圧力が和らぎ始めた可能性を示唆したとして、「インフレ沈静化の兆しか」とのサブタイトルをつけて報じている。

こうしたことに反応したのが米国の債券市場だ。一時は1.8%と2020年1月以来、2年ぶりの高水準を付けた10年債利回りは結局、1.7%まで低下した。市場の期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率(10年BEI)は頭打ちが鮮明になっている。年初1月3日の2.65%から昨日の2.47%まで大幅に低下した。直近ピークは11月半ばでそこからは30bps近く低下している。

メディアは足元で発表されるインフレ指標の高さを強調して伝え、さらに市場関係者の一部が危機感を煽るようなコメントをするので、インフレを抑えるためにFRBが金融引き締めを強化するとの見方が支配的になっているが、当の債券市場はインフレの沈静化を早くも織り込み始めている。CPIが39年ぶりに7%をつけ、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOやゴールドマン・サックスのヤン・ハチウス氏が今年の利上げ回数を従来予想の3回から4回に引き上げた今週、米国長期金利が逆に低下したことがそれを物語る。

そもそも利上げ自体は米国株上昇の阻害要因にはならない。米国市場には“three steps and a stumble rule”という法則がある(NASDAQの用語集にも載っている)。利上げは3回目までなら大丈夫だが、そのあとは躓く、という意味だ。ところが実際のマーケットは3回どころか、もっと多くの利上げに耐えてきた。2004年から2006年にかけて、FRBはFOMCを開催する毎に17回連続で政策金利を引き上げたがS&P500はほぼ右肩上がりに推移した。2016年から2018年にかけての利上げサイクルでもS&P500は利上げ局面の終盤になってようやく調整を入れたが、それまで8回の利上げに耐えて上昇を続けた。

【図表1】米政策金利とS&P500
出所:日経CNBC

米国株式市場が利上げ期間中も上昇を続けた背景の1つが、長期金利の安定だ。政策金利に連動する2年債利回りは上昇したが、長期金利は過去2回の利上げ局面では安定的に推移した。その結果として長短金利差を示すイールドカーブはフラット化が進んだ。

結局、長期金利が上昇し、株式の益利回りとのスプレッドが縮小しない限り、米国株は安泰である。最近の市場の調整は、年初から最高値を更新して始まっただけに利益確定売りが出ているだけである。

日本株は日経平均の動きを見ると冴えないが、トヨタなどがけん引するTOPIXコア30は堅調だ。下値を右肩上がりに切り上げて、上値も年初に昨年来高値をとってきている。

【図表2】TOPIXコア30
出所:Bloomberg

今月下旬から始まる決算で、大型株から全体に物色が波及していくことを期待したい。