「スタグフレーション」への反応!?

先週の米ドル/円は、上下に不安定な動きを繰り返しながら、じりじりと下落、112円台での引けとなりました。ところで、これはこの間高い相関関係が続いてきた日米2年債利回り差からかい離した動きでした(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と日米2年債利回り差 (2021年6月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

日米2年債利回り差は、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言などから、量的緩和の縮小、いわゆる「テーパリング」の加速観測が広がったことを受けて、金融政策を反映する米2年債利回りが上昇したことで金利差米ドル優位拡大となりましたが、それを尻目に米ドル/円はむしろ下落気味の展開となったわけです。

このような先週の米ドル/円の動きは、日米2年債利回り差より、日米10年債利回り差でうまく説明できそうでした。長期金利の指標である米10年債利回りは先週大きく低下し、これを受けて日米10年債利回り差米ドル優位も縮小、まさに米ドル安・円高と連動した形となったわけです(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差 (2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところで、こうした動きは米ドル/円に限ったことではありませんでした。独米金利差は、金融政策を反映する2年債利回り差はユーロ劣位が拡大、一方長期金利の10年債利回り差はユーロ劣位縮小といった具合に正反対の方向性を示す中で、ユーロ/米ドルは1.13米ドル中心の一進一退に終始する結果となりました(図表3、4参照)。

【図表3】ユーロ/米ドルと独米2年債利回り差 (2021年6月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成
【図表4】ユーロ/米ドルと独米10年債利回り差 (2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

 

以上見てきたことで注目されるのは、日米、独米の金利差は先週、金融政策を反映する2年債利回り差と長期金利の10年債利回り差が逆方向の動きになったということです。その主因は、米国の2年債利回りと10年債利回りが基本的に逆方向の動きになったことでしょう(図表5、6参照)。

【図表5】米2年債利回りと米10年債利回りの推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

上述のように先週はパウエルFRB議長の発言などを受けて、インフレ対策を強化することで金融緩和の政策転換が加速する観測が広がりました。これを受けて、金融政策を反映する米2年債利回りは上昇再燃となったわけです。

一方で長期金利の米10年債利回りが低下したのは、金融緩和見直し加速による先行きの景気減速への懸念を示していたと考えられます。折しも新たな変異ウイルス「オミクロン株」への警戒感が続く中で、金融緩和の見直しもさらに加速する可能性が出てきたことから、先行き景気への懸念がより強まった面もあったかもしれません。

そして重要なのは、このような中で為替相場は、すでに見てきた米ドル/円がとくに顕著だったように、久しぶりに米2年債利回り上昇より、米10年債利回り低下に反応した形で米ドル下落気味の展開となったわけです。

為替相場は、2020年3月の「コロナ・ショック」以降続いてきた米国の超金融緩和政策転換の可能性が意識され始めた6月FOMC(米連邦公開市場委員会)の後から、基本的に金融政策を反映する米2年債利回りを主役とした金利差への連動が続いてきました。それが先週変化したのはなぜか。

1つ考えられるのは物価上昇と景気後退が同時に起こるスタグフレーションへの懸念ということ。スタグフレーション懸念を受けた為替相場の反応が通貨安になることがあるためです。

例えば、1999年に誕生した欧州統一通貨ユーロが、「第二の基軸通貨」との期待と裏腹、ほぼ一本調子で下落、ユーロ安に歯止めをかけるべくG7(先進7ヶ国財務相会議)協調介入出動まで追い込まれるところとなったのは、欧州経済のスタグフレーション懸念が原因だったとの見方もありました。11月下旬には1.6%を超えるまで上昇していた米10年債利回りは、先週末には1.4%を大きく下回りました。FRBのインフレ対策が景気を悪化させ、さらなる長期金利低下をもたらすことで、米ドルも長期金利、米10年債利回り低下への追随が続く可能性は気になるところでしょう。

他方、米2年債利回りの90日MAからのかい離率は先週末時点でもプラス70%程度と、記録的に「上がり過ぎ」懸念の強い状況が続いています(図表6参照)。このため、金融緩和見直しの加速と言っても、目先的には米2年債利回りのさらなる上昇は限られ、むしろ「上がり過ぎ」の修正で低下する可能性も十分ありそうです。

【図表6】米2年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上のような米金利を取り巻く環境からすると、スタグフレーション懸念が拡大し、「米10年債利回り低下=米ドル安」が続くかはまだ微妙だと思いますが、米2年債利回りの短期的な「上がり過ぎ」修正に伴う低下の可能性も考えられることから、目先的には米ドル高は限られ、相対的に下値リスクが拡大しやすい展開が続くのではないでしょうか。