「米金利上昇=米ドル高」の修正局面
先週の米ドル/円は、115円半ばまで一段高となりました。しかし、金曜日(11月26日)に南アフリカのコロナ変異種について報道されると、世界的なリスクオフ急拡大となり、米金利が大きく低下。それに連れる形で米ドル/円は113円割れ近くまでの急落となりました(図表1、2参照)。
ところで、米金利の大幅な低下は、コロナ変異種への懸念以上に「上がり過ぎ」の反動が大きかったのではないでしょうか。米2年債利回りの90日MA(移動平均線)からのかい離率は一時プラス100%以上に拡大しました(図表3参照)。
過去10年余りの間で、同かい離率がプラス60%以上に拡大したことは3~4回しかありません。そのことからすると、かい離率が100%以上に拡大したのは、異常なほどの短期的な「上がり過ぎ」の可能性を示していたと考えられます(図表4参照)。
その意味では、コロナ変異種への懸念をきっかけとした世界的なリスクオフ急拡大の中で、米金利については異常なほどの短期的な「上がり過ぎ」の修正が一気に入ったということではないでしょうか。こういった中で一時0.6%も大きく上回っていた米2年債利回りは、金曜日(11月26日)には一転0.5%まで大幅な低下となり、90日MAからのかい離率もプラス60%程度まで縮小しました。
ただ、プラス60%程度のかい離率は、まだ短期的な「上がり過ぎ」懸念の強い状況が続いている可能性を示しています。その意味では、「上がり過ぎ」の修正の米金利低下はまだ続く可能性がありそうです。
そもそも、この米金利の異常なほどの短期的な「上がり過ぎ」をもたらしたのは、米インフレ懸念拡大を受けて米金融緩和見直しの加速観測が拡大したことだったでしょう。
具体的には、次回12月FOMC(米連邦公開市場委員会)で、11月から始まった量的緩和の縮小、「テーパリング」を加速させるといった見方が増えていました。しかし、こういった見方は今回のコロナ変異種への懸念をきっかけとしたリスクオフ急拡大を受けて落ち着く可能性があるのではないでしょうか。
ところで、米感謝祭の翌金曜日(11月26日)は、小売業界では1年で最も売り上げが見込める日とされることから「黒字の金曜日」といった意味で「ブラック・フライデー」と呼ばれます。それが2021年の場合は、世界的な株価暴落による「暗黒の金曜日」といったブラック・フライデーとなりました。
そんな「ブラック・フライデー」において、一際目立った暴落相場の1つは原油でしょう。WTIは、前日終値の78米ドルから68米ドルまで一気に1割以上もの大幅な下落となりました(図表5参照)。これは2020年4月以来の大幅下落なので、まさに2020年3月「コロナ・ショック」を受けた原油相場の暴落局面以来の出来事だったわけです。
それにしても、なぜ原油相場は暴落したのでしょうか。WTIの5年MAからのかい離率は一時プラス50%程度まで拡大し、2010年以降では最も中長期的な「上がり過ぎ」懸念の強い状況となっていました(図表6参照)。
こういった中で今週まさに、米国を中心とした国家備蓄石油の協調的放出が行われたわけですが、原油高抑制策として有効ではないとして、原油高は再燃の様相となっていました。
原油相場の需給調整策として有効なアプローチに向かっていないとの考え方は個人的にも同感するところです。ただ、既に中長期的には「上がり過ぎ」懸念が強い状況の中で、改めて買いに動いたところで今回のコロナ変異種ショックがカウンター・アタックのような形になった可能性があったのではないでしょうか。
原油相場を含めたエネルギー価格の急騰が一段落したことは、既に述べたように、このところの米インフレ懸念の拡大に伴う米金融緩和見直しの加速観測が一息つくもう1つの要因になる可能性があるでしょう。そうであれば、米金融緩和見直しの加速観測を受けた米金利の短期的な「上がり過ぎ」も、目先的にさらに修正に向かうのではないでしょうか。
そして、そんなふうに米金利が低下するなら、米ドル/円もそれに連れる形で下落リスクが試されやすい展開が続く可能性がありそうです。