さすがに昨日は日経平均2万9000円目前で反発したが、それにしてもこのところの日本株の弱さは何に由来するものかと考えていた。
すぐに思いつくのはインフレ懸念。今週に入ってからでも中国の卸売物価指数、日本の企業物価指数など強烈な上昇を示した。極めつけは米国のCPIで前年同月比6%超と約31年ぶりの上昇となった。中身を見ると中古車の上昇がけん引しているが、これは前からの要因だ。その背景はコロナによる供給制約が主なものだから新車が作られるようになれば中古車の高騰も収まるはずだ。つまり、コロナ感染が下火になって供給制約が緩和されればインフレは落ち着くという、これまでの見通しを変える必要はない。
エネルギー価格の上昇は気候変動などに絡む複雑な要因があるが、OPECプラスが増産ペースを変えないと決めた後でも原油価格は上昇していない。米国が本気で原油価格の上昇を止めにきたからだ。バイデン米大統領は上昇する「インフレの反転が最優先課題」とし、エネルギー価格を抑制する方策を模索するように米国家経済会議(NEC)に指示した。連邦取引委員会(FTC)に対しても、エネルギー部門における市場操作や便乗値上げなどの阻止に取り組むよう求めたという(出所:ロイター)。
実際に米原油在庫は3週連続で増えた。米政府の戦略備蓄の減少が近年では大きく、原油在庫の増加につながったとの見方があった。市場では米政権がガソリン高などを抑えるため、近く大規模な戦略備蓄の放出に踏み切るとの見方が浮上している(出所:日本経済新聞電子版)。
原油価格も目先、頭打ちではないか。
天然ガスは明確に値崩れしている。変則的なヘッド&ショルダーと見れば天井を付けたと思われる。
先週末発表された米国の雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比53万1000人増と45万人増を見込んだ市場予想を上回り、失業率も9月の4.8%から4.6%に低下した。労働市場に労働者が戻っていることが示された。人出不足も解消に向かうだろう。
アジアの状況はどうか。以下はJETROによるビジネス短信のヘッドラインである。
2021年11月10日
新型コロナワクチン接種証明書提示で水際措置緩和の動き、入国条件として義務化も(インド、インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、以下省略)2021年11月9日
11月29日からマレーシア、フィンランド、スウェーデンとワクチン・トラベルレーン開始(シンガポール)2021年11月9日
マニラ首都圏は11月21日まで新型コロナウイルス対策「アラート・レベル2」に緩和(フィリピン)2021年11月5日
新型コロナ活動制限延長も、首都はレベル1、入国時の隔離期間も緩和(インドネシア)2021年11月5日
ベトナム、10月の生産活動に回復の兆し(ベトナム)
コロナ感染で厳しいロックダウンなどが強いられたアジア諸国もピークは越えたと見ていいだろう。これで供給制約も徐々に緩和に向かうと考えられる。
以上を考えればインフレ懸念は足元がピークだろう。米国債券市場で期待インフレ率を表すブレークイーブン(10年)は2.7%と約15年半ぶりの水準に上昇したが、名目の長期金利はそれほど上がっていない。結果として実質金利は7月末以来となるマイナス水準に低下した。
こう考えてくると、株式に対して弱気になる必要は全くない。事実、機関投資家は強気見通しである。QUICKが8日発表した11月の株式月次調査によると、11月末の日経平均株価の予想平均は2万9809円と、月末(1カ月後)の予想として1994年の調査開始以来過去最高となったという。
週間展望でも書いたが日曜日の日経新聞が報じたように日本企業の業績は一段と上振れしている。日経が5日までに決算と今期予想を発表した企業784社を集計したところ、22年3月期の増益率予想は45%と8年ぶりの高い伸び率となるという。
市場では業績が上振れした企業は買われるが下振れした企業が売られる二極化の動きが鮮明になっているが、毎度のことだ。今回の決算は上振れの方が多いのだから自然と市場全体は締まってくるだろう。
これだけの条件がそろって上値が重い理由はSBG(9984)の業績懸念だったと思う。実際、あれだけの下方修正を出されると、日経平均の予想EPSはそれまでの上方修正で積み上げた分を一気に吹き飛ばす結果となった。
ただし、これで悪材料も出尽くしだろう。
日経平均は上向いている25日線ほかの移動平均が密集する手前できれいに切り返した。
一目均衡表の雲がサポートになっていた。直近の連続した陰線は雲の上限にそって滑り落ちたが、雲の中に入ることなく上放れ始めた。
しかし、SBG1社に日経平均のファンダメンタルズが影響を受け過ぎるという構造問題は残る。
この表は日経平均を構成する225銘柄の当期純利益の予想額である。SBGの2兆5000億円という下方修正で1夜にして「日経平均株式会社」の利益の7%強を吹き飛ばした格好である。しかも、SBGは事業会社ではなく投資会社だ。その収益は市場の変動で決まる。つまり日経平均は市場変動でファンダメンタルズもまた多大な影響を受けるような株価指数なのである。これはある意味で「二重構造」、もしくはレバレッジが効いているとも言えるだろう。日本株市場の構造問題として指摘しておきたい。
さて、そのSBGだが5月の急落で突き抜けた一目均衡表の雲をようやく上に抜けようかという状況にある。9月の相場急伸時にトライして抜けなかった壁だ。ここを上抜ければ底打ち反転と見ていいだろう。市場全体のムードも変わるだろう。