量的緩和と円高。週末の新聞にも記事がありました。
金融政策と為替市場との関係は非常に深いのですが、その相場変動はセオリー通りではないことも多く、分かりにくいものも多いですよね。

ずっと以前、私が銀行にいた頃のことです。ディーリングルームでカスタマー・ディーラーのチームに配属されたとき、何かのニュースなどに瞬間的に反応する市場の方向感が掴めず、困った覚えがあります。
このニュースでどうして買われるのだろう・・・売られるのだろう・・・。あれこれ考えてから相場を見ているようでは、もう遅いのです。

中でも金利の動きは為替変動の要の一つともいえるのですが、これが難しい。私は以前初心者向けの金利の本を書いたのも、一般の個人には金利は「遠い」ものである、そんな経験からでした。

さて、まずは教科書的な金融政策の効果について簡単に説明しましょう。一般に為替市場では、金利の高い通貨が買われ、逆は売られます。
金利の高い通貨であれば、保有することで金利を稼ぐ(スワップポイントを受け取る)ことができますし、もちろん、そうした選好を基にその通貨価値が高まることに期待されるからです。(買いたい人が増えれば需給のバランスで価格が上がるので)
金融政策によって「利上げ」が行われれば、その通貨は買われるのが普通です。
一言で金利上昇といっても「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があります。景気回復期にインフレ予防のため「利上げ」がベースとなった金利上昇は良い金利上昇ですが、国債の大量発行などによる財政悪化懸念、将来のインフレ懸念などによる長期金利上昇や新興国におけるハイパーインフレ時の急速な利上げなどは悪い金利上昇の例と言えるでしょう。
当然のことながら、良い金利上昇は為替相場においては「買い」につながり、悪い金利上昇は「売り」につながります。

日本は10年以上前にゼロ金利政策を導入しました。その後一旦解除したものの超低金利で継続し、リーマンショック後再び限りなくゼロに近い「実質ゼロ金利」(0.1%)となっています。これ以上「利下げ」による景気刺激という金融政策はとれず、デフレ対策という点からも昨年12月、市場に「広い意味での量的緩和」を行っています。
量的緩和は市場に資金を大量に供給することです。(よく「ジャブジャブにする」といいます)企業や個人が資金調達をしやすくし、経済活動を後押しすることが目的です。

ゼロ金利政策、量的緩和・・・米国も超低金利政策をとっているとはいえ、日本の政策金利は相変わらず世界一低く、資金が市場にあふれているような国の通貨がなぜ買われる=円高になっているのでしょうか。

「広い意味での量的緩和」の発表があったとき、市場においては「十分な措置ではない」「資金量が期待以下」という反応があり、その結果、再び円高に振れました。金融政策が市場の期待に応えられなかったということです。

また、政策金利の対象となる「翌日物」では日本は世界一低金利なのですが、国際金融市場での3か月ものや6カ月物といった短期金利においては、米国金利との逆転現象がおきています。(LIBOR)金利の高い通貨が買われる ・・・という動きは政策金利だけ見ても分からないということですね。
金融政策と為替相場の方向は、必ずしも教科書通りではないので、実際の市場動向など大局的に捉えるようにしたいですね。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー