今回は、企業との対話(エンゲージメント)を重視し、友好的アクティビストとして知られる「タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(以下、タイヨウ)」の投資先企業や投資手法について解説します。

タイヨウ・パシフィック・パートナーズとは

タイヨウは、米国ワシントン州カークランドに拠点を置く投資ファンドです。2003年に設立され、日本およびアジアの株式を長期的に保有することを前提に投資しています。

2021年2月時点における日本に特化したファンドの運用額は35億ドルを超えており、これまでローランドや全国保証、堀場製作所などに投資を行なってきました。

タイヨウが投資を行うときは、経営者と1年半から2年かけて話し合いを重ねます。そして約20人の担当者が投資先の選定をし、1年間で約800社の企業訪問を行っています。

それでは、タイヨウの具体的な投資先と投資手法について見ていきましょう。

全国保証への投資

2021年2月、タイヨウは全国保証株式会社(7164)の発行済株式総数の5%超を取得したことを発表しました。同社のプレスリリースの中でブライアン・ヘイウッドCEOは、「(全国保証は)日本における独立系住宅ローン保証会社の中でも最大規模を誇り、(全国保証の)石川社長は継続してマーケットシェアを拡大させてきました。石川社長の進める企業価値向上への取り組みは、顧客及び株主の満足度を高めると信じています」と述べています。そして石川社長も、タイヨウの企業価値向上への姿勢を評価し、長期的な視点で投資していることに対して感謝の気持ちを示し、さらなる企業価値向上へ取り組むとコメントしています。

タイヨウは企業の経営陣と話し合い、企業価値の向上を目指す協力的な投資スタイルを持つことで知られていますが、全国保証とも友好的な関係を築いていることがわかります。

ローランドの再建に協力

経営再建のため、2014年にMBO(経営陣が参加する買収)によって上場廃止した電子楽器大手のローランド(7944)が、2020年12月16日に東証1部に再上場しました。時価総額は800億円を超え、2020年の最大規模のIPO(新規株式公開)となりました。

上場にあたって、大株主のタイヨウは1,171万株(発行済株式数の42.8%)を売り出しました。ローランドは、電子ピアノやギターアンプ、シンセサイザーなどの音響機器や電子楽器を開発・製造しています。「BOSS」や「Roland」といったブランドは世界でも知名度が高かったものの、流行の変化への対応が遅れ、リーマンショック以降の価格競争にも巻き込まれて業績が低迷。2013年3月期まで4期連続で最終赤字となりました。そこで、抜本的な経営改革のために2014年にタイヨウと組んでMBOを実施したのです。

ローランドが再上場した2020年12月16日の初値は2,954円となり、公開価格の3,100円を下回りました。タイヨウはローランドが上場した後も過半数の株主を握る筆頭株主にとどまりました。その後、コロナ禍における巣ごもり需要の高まりにより、電子楽器は欧州中心にピアノが好調。ギター関連も米国を中心に増勢となりました。そして、ローランドの株価は2021年6月15日に6,560円となり、公開価格の2倍以上の価格をつけています。両社の経営陣が協力し、経営改革を行ってきたことも市場に評価されたのではないかと思います。

GPIFの新規運用委託先に

2014年4月、日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、タイヨウ・パシフィック・パートナーズを新規運用委託先に選びました。米国のアクティビストであるタイヨウに、GPIFが「お墨付き」を与えたという報道も見らました。

タイヨウのブライアン・ヘイウッドCEOは、日本企業を中心に投資している理由を次のように述べています。「日本企業はコーポレートガバナンス(企業統治)に問題があり、潜在力を発揮できていないケースが多い。私は投資先企業が価値をつくり続けることを重視している。そして、そうした企業の株式を長期で保有する。むやみに配当を求めるのではなく、経営者と友好な関係を築き、社外取締役として必要な知恵を提供する」。同氏はマクセルホールディングスなどで社外取締役も務めており、株主としてだけなく、社外取締役として企業価値を高めるアドバイスもしています。

 

タイヨウは投資先企業と友好的な関係を築き、ともに企業価値を高めようとしています。かつてのアクティビストは「ハゲタカ」と呼ばれて企業から敬遠されてきましたが、今では企業とアクティビストが手を組んで経営改革などの企業価値向上に取り組む例が増えおり、そのイメージも変わってきています。