米雇用者数、8月は市場予想を下回るサプライズ

先週末9月3日に発表された8月の米雇用統計において「非農業部門雇用者数の伸び(前月比)」が市場の事前予想や前回数値を大きく下回るサプライズとなりました。

米国におけるデルタ変異株の感染拡大で、レストランやバー、小売り、建設、ヘルスケア関連などの雇用拡大に一旦ストップがかかったものと考えられます。

一方で「平均時給」はやや大きく上昇しましたが、それは、比較的賃金水準の低い業種を中心に雇用が減少したことによるものと見られます。

また「失業率」が低下したのは、一時的にも求職者数自体が減少したためであると考えられます。それにもかかわらず、最終的に米国債が売られて米国債利回りが上昇したのは、目先の「市場の誤り」であるに違いありません。ですので、週明け以降に一旦修正の動きが生じる可能性がある点には要注意であると思われます。

むろん、米国の雇用情勢の改善がこれで完全にストップしたわけではないはずです。デルタ変異株の感染拡大が深刻化するごとに、米政府や米企業などは直ちに具体的な対応に乗り出しています。

例えば、目下の米国ではワクチン接種済みであることを新規採用の条件とする企業が増えています。結果、一時的にも米企業による採用ペースは鈍化するでしょうが、求職者らのワクチン接種が一段と進めば、いずれまた採用は活発化するでしょう。

当然、ワクチン接種が進展したりマスク着用義務が徹底されたりすれば、感染拡大にも歯止めがかかり、再びサービス業全般の求人および採用も増えると思います。

9月以降の雇用者数は再び増加傾向を強める可能性も

そもそも、7月の米雇用者数の伸びが大きく出た一因は、失業保険手当ての上乗せ給付が全体の約半分の州で6月や7月に前倒しで終了したことにもあると思われます。

8月の米雇用統計の結果は、7月の大幅な雇用者数増加の反動とも考えられます。また、残りの州で上乗せ給付が終了するのが本日(9月6日)であることから、9月以降の雇用者数は再び増加傾向を強めると見ることもできると思われます。

もちろん、今回の結果は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策判断に多少なりとも影響することでしょう。少なくとも、市場ではテーパリングの開始時期がこれまでの想定よりも先送りされると見る向きが増え、一時的にも米ドル買いに慎重なムードが漂うかもしれません。

しかし、FRBが金融政策の正常化を多少先送りする一方で、欧州中央銀行(ECB)や日銀の方がより早期に正常化に踏み出すというのも考えにくいことです。つまり、今後もユーロや円と米ドルとの関係性には基本的に変わりがないと思われます。

ユーロ・英ポンドに対する米ドル売りの流れは一服か

ユーロ/米ドルは先週9月3日に一時1.1900ドル台を回復する場面もありました。しかし、これで当面の上値の目安に到達し、そろそろ戻り一巡となる可能性もあります。

今週行われるECB理事会を前に、先週は関係者らによるタカ派寄りの発言が目立っていましたが、場合によっては理事会の通過をもってユーロを買い戻す手が引っ込む可能性も大いにあると思われます。

仮に、今回の会合でパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による資産買い入れペース減速の方向性が強く示された場合には、結果的に米国債に向けた欧州からの資金の流れが細り、米国債利回りが上昇する可能性もあると見られます。

一方、英国では国際条約「離脱協定」の履行を迫るEUとの対立が、再び激しさを増す可能性が高いと見られています。ですので、当面は英ポンドを積極的に買い上がることも憚られます。

先週9月1日に行われたOPECプラスによるビデオ会議の結果も原油価格の押し上げにはつながらず、同時に英ポンドの買い材料にもなっていません。結果、ユーロや英ポンドに対する米ドル売りの流れが一服する可能性も高まっており、同時に対円でも米ドルの下値は限られてくる可能性が高いと見られます。

先週末の米ドル/円は、8月初旬から形成されている三角保ち合いの下辺ならびに一目均衡表(週足)の「基準線」で下げ止まっています。ここは押し目を丹念に拾っていく算段で臨みたいところです。