脱炭素によるEV普及がさらに加速
欧州では欧州連合(EU)が脱炭素推進のため、ハイブリッド車を含むガソリン車などエンジンで動く自動車の新車について2035年以降は販売を禁止する方針を打ち出しました。国別で自動車販売台数が世界首位の中国では政府による補助金やナンバー取得の優遇措置などもあり電気自動車(EV)の普及が進んでいます。
EVはガソリン車に比べてCO2(二酸化炭素)を排出せず、加速もスムーズで走行も静かなメリットがあります。一方で、バッテリーの充電に時間がかかる、走行距離が短いなどのデメリットもあります。
そのためEVの急速充電ステーションの速やかな整備や充電時間の短縮が急務となっています。さらなるEVの性能向上を左右するバッテリーを含む駆動システムの軽量化や小型化の研究開発も進められています。
ここでキーデバイスとなるのが電力の変換や制御を司るパワー半導体です。特に旧来のシリコン製に比べて、高耐圧かつ高耐熱で電力の変換損失も少ない「SiC(炭化シリコン)」と「GaN(窒化ガリウム)」などの化合物パワー半導体の利活用拡大が今後のEVの普及のカギを握りそうです。
各国で進むEVインフラ整備
経済産業省の最新の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」ではEVなど電動車の普及拡大のため車関連技術・サプライチェーン強化を進める方針が打ち出されました。公共の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現すると明記しています。
自動車向けの日本初の急速充電統一規格の「CHAdeMO(チャデモ)」協議会は2018年に、中国の規格「GB/T」を推進する「中国電力企業連合会」と次世代の規格作りに向けた覚書を結んだと発表するなど、世界的な充電規格の統一に向けた動きが進んでいます。チャデモは2010年にトヨタ自動車(7203)、日産自動車(7201)、三菱自動車(7211)、SUBARU(7270)、東京電力ホールディングス(9501)の5社が幹事会社となり設立されました。
また東京都などの自治体もEVの急速充電器を設置する際の規制緩和を進めており法的な環境整備も進められています。米国ではバイデン政権が推進する脱炭素を軸とした「グリーン・ニューディール」政策においてもEVインフラの整備が盛り込まれています。与党民主党が進める大型のインフラ整備計画において、2030年までに企業や地方自治体への補助金などを通じて全米でEV向け充電設備を50万ヶ所設置するとしています。
EVインフラ関連のローム、ニチコン、ダイヘン
電子部品大手のローム(6963)は、SiCなどの化合物半導体を材料のウエハーから一貫生産し、EVに搭載される急速充電用オンボードチャージャーにも注力しています。オンボードチャージャーは、住宅のコンセントや充電ステーションの交流の電気をバッテリーに適した直流の電気に変換するコンバーターとしての役割を持っています。株価は自動車市況の回復やパソコン向けの好調もあり、戻り基調が続いています。
アルミ電解コンデンサ大手メーカーのニチコン(6996)は前述の「チャデモ協議会」の会員企業で省スペース型のEV用急速充電器を手掛けています。EV向けの急速充電器に公共・産業用の蓄電システムを組み合わせた複合システムを商業施設や公共施設、ガソリンスタンドなどに導入しています。株価はコロナ禍の影響などで前期21年3月期が4割の営業減益となったこともあり、出遅れています。
変圧器や受変電設備のほか溶接ロボット、半導体製造装置向け部品などのダイヘン(6622)もチャデモ会員企業です。同社は電力機器の知見を活かしてEVが走行しながら充電できるワイヤレス給電の技術開発にも注力しています。関西電力(9503)や大阪府堺市と超小型EV(電気自動車)向けワイヤレス充電システムの実証実験を進めています。半導体や自動車市況の活況などの追い風もあり予想PER(株価収益率)は12倍台と割高感が乏しく、今後の見直し買いに期待したいところです。