鈍さ続く米ドル円相場

ビットコインが急落しても、日経平均株価が3日間で2,000円を超える大幅下落を演じても、米ドル円相場は反応が鈍く「リスク回避で円高」といった現象は起こりにくくなっています。

現在のところ、積極的な円売りも起きておらず、米ドル円相場は109円台で膠着しています。しかしながら、今後は大きく円安トレンドを強めていくのではないか、と見ています。

日銀の金融緩和政策は長期化の気配

米国では物価上昇圧力が強まっており、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)のテーパリング(量的緩和政策の縮小)時期を巡る議論が始まっています。カナダの中央銀行は4月にテーパリングを決定しました。ニュージーランドの中央銀行は2022年下期の政策金利が上昇に転じる可能性を示唆しました。

コロナ禍にて政策金利をゼロに引き下げ、債券買い入れなど量的緩和策を講じてきた主要国の金融政策は転換期に入ろうとしているのです。

ところが、日本の消費者物価指数は9ヶ月連続でマイナスです。物価上昇の兆候が見られず、他国と比較しても現在の質的量的金融緩和政策は長期化することが予想されています。金融引締めに入る国の通貨は買われやすくなりますが、金融緩和が長期化すると見られる円の買い需要が高まるとは考えにくい状況となってきています。

原油など、資源価格の上昇で日本の貿易収支は悪化する可能性

WTI原油価格は70ドル近辺にまで上昇してきました。経済の正常化による石油需要増に加え、シェール企業などへの投資不足も今後の原油の需給関係への不安を募らせています。

2015年の原油価格の急落以降、価格低迷が長期化したために、石油の上流部門への投資は急減したまま、回復していません。この先も脱炭素社会を目指す世界は石油会社への投資を控えるとみられ、原油供給が増える見込みがない一方で、世界のエネルギー需要は伸びていくことが予想されています。

また発電や蓄電など再生可能エネルギーの実現には銅を始めニッケル、リチウム、レアアースなどが必要です。原油も、これらの鉱物も日本の自給率は低いものであり、世界で資源争奪戦が繰り広げられる中、日本はどんなに価格が高くても輸入をしなくてはなりません。

これが今後、日本の貿易赤字を拡大させていくと考えられるのです。貿易赤字の拡大は米ドル買い円売り要因です。

以前、3.11の後に起きた猛烈な円安は、日銀の量的緩和政策がスタートしたことに加え、原発が停止したことで海外から液化天然ガス(LNG)を輸入せざるを得なかったことによる日本の貿易赤字の拡大も影響しています。

ただし、米ドルも上がりにくい状況が続きそうです。FRBがインフレは一時的というスタンスで早期テーパリング開始には慎重なスタンスであることや、米国の制裁を嫌ったロシアの政府系ファンドが米ドル保有をゼロにし、ユーロと人民元、金に資金を振り向ける計画であることがその要因です。

また世界の年金基金、ヘッジファンドなどが金利の高い中国国債を買う動きも旺盛となっており、人民元高が進んでいます。人民元高は米ドル安につながります。現在、米ドルは売られやすい環境となっているのです。

よって、米ドル円相場は動きにくい状況が続くかもしれません。その一方で、ロシアが保有を増やすとしているユーロを軸に、「ユーロ円」などクロス円については、良好なパフォーマンスが期待できるかもしれません。