2021年6月、3年ぶりにコーポレートガバナンス・コード(企業統治方針)が改定されます。ESG(環境・社会・ガバナンス)やサスティナビリティに関する規定の拡充などが含まれており、企業統治のあり方が大きく変わる可能性があります。また、「物言う株主」というのはアクティビストだけではなくなり、機関投資家など他の株主が企業統治に介入するのが当たり前の風景になりつつあります。

この記事では、今後の企業統治やアクティビスト活動がどのように変わっていくのかについて解説します。

3年ぶりにコーポレートガバナンス・コード(企業統治方針)が改定

近年、アクティビスト活動が活発化しているのは、日本においても企業価値重視の流れが強まってきているからです。2014年6月には金融庁が「スチュワードシップ・コード」を公表。そして、2015年6月には「コーポレートガバナンス・コード」が東証の規則になりました。

両コードは、機関投資家と上場企業それぞれにプレッシャーをかけることで、企業価値の向上、つまり株価の引き上げを意識したものです。

そして2021年6月、コーポレートガバナンス・コードが3年ぶりに改定されます。2021年5月30日付の日本経済新聞の記事では、「東証1部を引き継ぐプライム市場に上場する企業に対し取締役会の3分の1以上を独立した社外取締役で構成するよう求めるなど、日本企業の「統治のあり方」を大きく変える可能性があります」と書かれています。

アクティビストの投資戦略の変化

アクティビストは、数%~数十%の株式を保有し、成熟企業を対象にするのが通常です。しかし、5月に開催された米石油大手のエクソンモービルの株主総会では、わずか0.02%しか株式を保有しないアクティビスト「エンジン・ナンバーワン」が、同社に対して石油以外への事業の多角化と気候変動対策を求め、推薦した取締役候補4名のうち2名が選任されるという異例の判決が下されました。

以前はアクティビストというと、対象企業の株式を買い集めて株主提案を行い、経営陣に自社株買いなどの要求を力ずくで飲ませていました。しかし、現在では株式を大量保有していなくても株主提案を出すケースが多く見られるようになりました。その原動力となっているのが、「スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)」です。

アクティビストは株主還元の要求だけでなく、取締役の選任や事業戦略などガバナンス改革にまで踏み込む提案を行うようになりました。そして、機関投資家も「スチュワードシップ・コード」の原則によって、企業価値向上に結びつく提案なら賛成票を入れるようになったのです。

アクティビストのターゲットになりやすい企業

それでは、どのような企業がアクティビストのターゲットになりやすいのでしょうか。アクティビストは、基本的にバリュー(割安)投資家です。まず、企業の本質的価値に比べて割安な株価がついている企業にターゲットを搾ります。例えば、2018年にアクティビストから株主提案を受けた18社のうち、14社がROE(自己資本比率)8%未満、15社がPBR1倍未満でした。

アクティビストが企業をスクリーニングする際、最初に選ぶのがROE8%未満の低収益企業、そしてPBR1倍未満の割安に放置されている企業です。この2つの指標で企業を選別した後、ガバナンス体制が脆弱で株主還元余力のある企業をターゲットにします。

例えば、経営者が将来のビジョンを明確に示していない企業や、明確な使用目的がない余剰資金を持っている企業、スピンオフの対象となりやすい非関連事業を保有している企業などが、アクティビストの対象になりやすいのです。

機関投資家も「物言う株主」に

以前は「物言う株主」というと、経営陣と対立して株主提案を仕掛けるイメージが強かったと思いますが、現在は対立よりもエンゲージメント(対話)を重視するようになってきています。そして、機関投資家の行動原則である「スチュワードシップ・コード」では、経営陣とのエンゲージメントが当たり前になっています。

さらにESGへの関心の高まりや新型コロナウイルスの感染拡大による経済の不安定化により、機関投資家も積極的に株主提案を出すようになってきています。特に海外では「ESGアクティビズム」の動きが広がっています。その結果、機関投資家の多くが「物言う株主」となりつつあるのです。

そしてESGの「S(社会)」の中で重要になってきているのが、人材の多様化です。つまり、人種的マイノリティーや女性の登用が焦点になってきています。

例えば、アライアンス・バーンスタインは、2021年から女性取締役ゼロで、任命もしようとしない企業のトップ専任に反対するという基準を決めました。ゴールドマン・サックスも女性取締役がいない場合、指名委員会に反対。指名委員会がない場合は、経営トップの選任に反対するとしています。

6月に改定されるコーポレートガバナンス・コードでは、「社内の多様化は会社の持続的成長を確保する上でも強みになる」と書かれています。日本では女性管理職比率が低いので、6月の株主総会では女性管理職登用について踏み込んだ内容を発表する企業が増えるのかどうかにも注目したいところです。

日本企業もアクティビストを活用する時代に

以前は経営陣と対立し、やっかいな存在として考えられていたアクティビストですが、建設的な意見が増えてきたことで、日本企業もアクティビストとの付き合い方を見直す必要があるでしょう。

アクティビストが企業に成長戦略を提案し、企業が説得力のある対応をすることで、企業価値の向上にも繋がります。アクティビストも、これまでの増配や自社株買いなどだけでなく、どのような成長戦略を企業側に提案するかが重要な時代になってきています。

ただ、企業はアクティビストの提案をすべて受け入れなければいけないというわけではありません。アクティビストの提案をきちんと考え、今後の経営方針を決定すれば良いのです。

過去には、ソニーグループがアクティビストから半導体や映画、金融事業の切り離しを要求されました。しかし、ソニーは2020年に金融事業を完全子会社化しています。その結果、2021年3月期には純利益が1兆円を超え、時価総額が過去最大になりました。

今後は、アクティビストの提案をきちんと検討し、賛否いずれにせよ説得力のある対応をすることが、企業価値を向上させるための必要条件になっていくでしょう。