NFPと米ドル/円の関係
先週の米ドル/円は、一時110円を大きく超えて上昇しましたが、金曜日に発表された5月米雇用統計で、注目されたNFP(非農業部門雇用者数)が、事前予想を下回る結果になったことをきっかけに、110円を割れる反落となりました。
ただ、NFPが今回以上に予想を大きく下回る「ネガティブ・サプライズ」となったのは先月でしたが、米ドル/円はその後底固い展開となりました。そして、先々月、NFPは予想を大きく上回る「ポジティブ・サプライズ」となりましたが、その後米ドル/円は下落に向かいました(図表1参照)。
以上のように、最近はNFPの予想比に対する結果が示唆する一般的な方向、つまり「予想より悪い結果」なら下落、「予想より良い結果」なら上昇といったことと、むしろ米ドル/円は逆に動いてきました。その意味では、今回の「予想より悪いNFP」を受けて米ドル/円下落といった具合に、景気指標と為替の関係では久しぶりに「教科書通り」になった点こそ、まさに注目する必要があるのではないでしょうか。
「NFP→米金利→為替」、何が変わったか!?
これまで述べてきたように、この数ヶ月は、注目イベントである米雇用統計発表、その中でもとくに注目されるNFPの予想比の結果に対して、米ドル/円などは一般的に予想される方向とむしろ逆に動く結果となりました。
ただ、より重要なのは、NFPの結果に対して、米ドル/円など為替相場ではなく、米金利が一般的に予想される結果と、むしろ逆方向に動いたということではないでしょうか。そして、米ドル/円は2021年に入ってから、そんな米金利を主役とした日米金利差と高い相関関係が続いてきました(図表2参照)。
以上のように見ると、問題の本質は、なぜ米金利はNFPの「サプライズ」が示す一般的な方向と逆に動くことが続いたのかということになるでしょう。その手掛かりの1つは、米金利の「上がり過ぎ」度合いの違いではないでしょうか。
先々月、4月初めの米雇用統計発表前、米10年債利回りの90日MA(移動平均線)からのかい離率は、空前の「上がり過ぎ」の可能性を示していました(図表3参照)。以上のように見ると、ここで発表されたNFPが「ポジティブ・サプライズ」となったものの、米金利はその後逆に低下に向かったのは、上述のようにすでに「上がり過ぎ」だったことから、NFP「ポジティブ・サプライズ」への金利上昇の反応も限られ、むしろ「行き過ぎ」修正で下落に向かったということではないでしょうか。
そして、そのような4月以降の米金利の頭打ち、低下傾向を受けて、90日MAからのかい離率で見ると、米金利の「上がり過ぎ」も修正が進みました。すでに米金利は極端な「上がり過ぎ」ではなくなってきました。
そういった中で、先月の米雇用統計発表は、NFPのスーパー「ネガティブ・サプライズ」という結果となりました。それでも、米金利低下が限られたのは、90日MAからのかい離率で見た場合、上述のようにすでに米金利の「上がり過ぎ」が是正されていたことが一因だったのではないでしょうか(図表4参照)。
さて、そんな米金利、米10年債利回りは、先週金曜日の米雇用統計発表をきっかけとした低下により、ほぼ90日MA(4日現在、1.56%)まで低下しました。これによって、90日MAとの関係で言うと、「上がり過ぎ」は是正され、ほぼニュートラル(中立)に戻ったといえそうです。
このように、「行き過ぎ」が是正され、米金利がほぼ「ニュートラル」な状況に戻ったことから、米景気指標の予想比の結果に対して「教科書通り」の反応、つまりNFPが予想より悪かったことを受けて米金利が低下し米ドルが売られたということではないでしょうか。
ただ「上がり過ぎ」が是正されたということのより重要な意味は、米金利上昇が本格的に再開する環境が整ってきたということではないでしょうか。4月以降、米景気指標は予想以上に改善する結果が増えてきましたが、それに対して米金利が上げ渋る展開となったのは、すでに3月までの米金利急騰により、短期的な「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたことが主因だったのでしょう。その「上がり過ぎ」が是正されたことで、今後米金利はコロナ後の景気回復に金利上昇という形で素直に反応しやすくなっている可能性があります。
そんな米金利に米ドル/円は基本的に連動してきました。その意味では米金利上昇に連れる形で、米ドル/円の上昇も本格再開しやすくなっているのではないでしょうか。