アクティビストは企業に対して、事業再編や自社株買い、配当などを提案することで企業価値の増大を促し、投資先の株価の上昇を図る投資家です。そして、株主総会では委任状争奪戦(プロキシーファイド)など強硬な手段を用いることもあります。委任状争奪戦(プロキシーファイト)とは、株主総会において株主提案を可決させるため、議決権行使にかかる他の株主の委任状を、別の株主や経営陣と争うことです。

2021年4月8日付の日本経済新聞では「株主調査を手掛けるアイ・アールジャパンによると、日本の2020年総会でアクティビストから株主提案を受けた企業は24社と過去最多だった。企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)や機関投資家の行動指針(スチュワードシップ・コード)の導入で対話の促進が求められており存在感が増している」と報じられています。

エンゲージメント(対話型)の交渉が中心に

アクティビストの姿勢も変わってきています。2000年前後のアクティビストは10%〜過半数近くの株式を取得して敵対的TOBを仕掛けるなど、過激な「劇場型」が中心でした。そして、提案内容も財務課題解消のための自社株買いや増配などを提案するのみでした。当時のアクティビストは、短期的な利益の最大化だけを狙っていたものと思われます。

しかし、2010年以降は、エンゲージメント(対話)型の交渉が中心になってきています。取得する株式を5%以下に抑えながらも、ほかの株主が同意できるようなエンゲージメント(対話)を重視し始めたからです。

そして、財務課題の解消だけでなく、事業売却など会社の経営にまで踏み込んだ提案を出すようになりました。例えば、香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」は、キャッシュリッチ企業に対して資本効率の改善による配当の増額を要求する傾向が見られます。米ヘッジファンド「サード・ポイント」は、ソニーやセブン&アイ・ホールディングスなど事業を多角化している企業に狙いを定め、ノンコアビジネスの売却による企業価値の向上を要求するケースが多く見られます。

しかし、アクティビストは株主総会でいきなり株主提案をするわけではありません。まず株式を数%取得したら、経営陣に書簡を送付して面談を要請します。そして、水面下での話し合いを進めます。これが、いわゆる「エンゲージメント」です。

エンゲージメントには2〜3年程度と長い時間をかけるのが通常です。そして、企業側が提案を受け入れれば、表沙汰になることはありません。交渉が決裂した場合に表面化し、株主総会でのプロキシーファイトなどに発展するのです。ただ、そうしたケースは全体の2〜3割程度となっています。

2020年の株主総会ではアクティビストは過大な要求を控える

先述の通り、2020年の株主総会では、アクティビストからの提案数が過去最多を更新しました。2020年3月にコロナ・ショックによって株価が大きく下落しましたが、アクティビストにとっては狙いをつけていた企業の株式を取得する絶好の機会となったのです。また、ブルームバーグの記事によると、株価急落を自社株買いの好機と捉え、アクティビストファンドの米ダルトン・インベストメンツは30社以上の日本企業に自社株買いを要請する書簡を送り、3分の1以上が要請に応じたとのことです。

また、ESG投資への関心の高まりから、企業統治(コーポレートガバナンス)に関する提案も増えています。国内大手機関投資家や議決権行使助言会社が、政策保有株式や独立取締役についての行使基準を厳しくしていることから、今後もガバナンス改善を求める株主提案が増えそうです。

環境アクティビスト活動の高まり

ESG投資の関心の高まりによって、気候変動に関する株主提案も活発化してきています。2020年には環境NPOの気候ネットワークが、みずほフィナンシャルグループ(FG)に対して国内で初めてとなる気候変動関連の株主提案を出しました。

この株主提案で、パリ協定の目標に沿った投資を行うための経営戦略を記載した計画をみずほFGに対して求めました。この株主提案は過半数の賛成を得られずに否決されたものの、議決権行使助言会社大手のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイス(Glass Lewis)がこの提案への賛成を推奨していたことから、35%と高い支持を得ました。

通常の株主提案の賛成票は10〜20%程度ですので、気候変動に対する投資家の関心の高まりを実感させる内容となりました。気候変動対策を求める提案は、「環境アクティビズム」と呼ばれています。

そして、投資家と環境問題に詳しいNPOが急接近し、「環境アクティビスト」が生まれつつあります。

ESG投資の拡大により、環境アクティビストの株主提案が一定の支持を得るようになってきています。2020年の米国の株主総会では、温暖化対策を進めるため、エクソンモービルの会長と最高経営責任者(CEO)の兼務禁止の株主提案が提出されました。この提案は否決されたものの、30%近い賛同を得ました。

また、大手銀行のJPモルガン・チェースは、パリ協定を達成するための行動計画を求める株主提案が提出され、5割近い賛成票が集まっています。

環境アクティビストの誕生によって、企業にも気候変動に対する戦略が求められるようになってきています。今後は、環境アクティビストにも対応できるようなESGスキルを持った人材が、企業サイドでも必要になるでしょう。