「脱炭素社会」の実現に向けた動きは加速しています。

世界の動きとしては、米国主導の気候変動に関する首脳会議(サミット)が4月22~23日にオンラインで開かれました。バイデン米大統領は演説で「(気候変動による)危機はどの国も1国では解決できない」と強調し、団結と具体的な行動を求めました。

米国や日本は2050年までに二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガス排出を実質ゼロにするという目標を掲げていますが、菅義偉首相はこのサミットで2030年までに2013年度比で46%削減すると明らかにしました。米国も2030年に2005年比で50~52%減らす目標を掲げました。

世界が脱炭素に向かうと、石油や石炭に携わる企業は「負け組」と捉えられかねません。今回はこうした企業の株価から市場の評価を読み取ってみようと思います。

株価は業績動向に敏感に反応

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席もサミットで「(必要なのは)手を携えて協力し、互いに非難しないことだ」と前向きな姿勢を鮮明にしました。米国と中国は安全保障や経済、人権など幅広い分野で対立が先鋭化していますが、脱炭素では足並みをそろえました。世界のCO2排出量の4割超を占める米中が化石燃料からの脱却を推し進めれば、エネルギー産業は大規模な再編を迫られかねません。

それでは石油・石炭関連の銘柄の株価は低迷しているのでしょうか。結論から言うと菅政権発足後では上昇している銘柄が大半です。「石油・石炭」関連銘柄のうち、2020年9月16日以降の上昇率が高い上位10社は以下のようになります。

【図表1】 菅政権発足以降の上昇率が高い「石油・石炭」関連銘柄上位10社
出所:QUICK

トップは石炭から抽出した製鉄に不可欠な炭素燃料であるコークスを手掛ける日本コークス工業(3315)です。

2020年3月期の68倍にあたる19億円まで回復すると予想していた2021年3月期の連結純利益を2020年12月と2021年3月に上方修正し、業績回復を好感した買いが膨らみました。原料炭価格が下落する一方、コークス価格が高騰し採算が急速に改善したのが主因です。テーマよりも業績動向に株価が敏感に反応したというわけです。

石炭から水素!日本初の水素船に供給

もっとも、日本コークスは水素関連という横顔も持っています。コークスの製造過程では副産物として水素(副生水素)が発生します。伊藤忠商事(8001)とベルギー海運大手CMBとともに2023年度から船舶2~3隻分に相当する年数百トンを海運会社などに提供する方針です。

CMBが独自開発した軽油と水素を混ぜて燃焼できるエンジンを積んだ船舶向けの需要を見込み、瀬戸内海で就航予定の日本初の水素船となる小型フェリー向けにも供給する予定です。代替燃料の本命「水素」、圧縮機の加地テックは株価2倍強にで紹介した定義では「グレー水素」にあたりますが、CO2の回収やリサイクルの技術開発が一段と進めば「ブルー水素」として供給できるかもしれません。

2位の東亜石油(5008)はやや特殊なケースです。発行済み株式数の50.12%を保有する親会社である出光興産(5019)が2020年12月に経営の効率化や意思決定の迅速化を目的に、1株あたり2,450円でTOB(株式公開買い付け)すると発表したのを受けて株価が急伸しました。

大株主だった米投資ファンドのコーンウォール・キャピタル・マネジメントがTOB発表後に東亜石株を買い増したこともあって、TOB期間中の東亜石株はTOB価格を上回って推移しTOBは成立しませんでした。出光興産が提示したTOB価格を下回れば再び買収の可能性があるとの見方から、その後も株価は下がりにくくなっています。

「総合商社」でも事業内容は千差万別

押し寄せる脱炭素の潮流を受けてビジネスモデルの転換を急速に進めているのが総合商社です。

多様な事業分野を抱える総合商社ですが、業績が資源価格の変動に左右されやすく2020年1~3月期には多額の一過性損失の計上を迫られました。かつては石炭火力発電所や発電用石炭資源の新規開発に取り組んでいた総合商社は脱炭素に向けた取り組みを加速させ、再生可能エネルギーの開発などに舵を切っています。総合商社8社の株価は2020年9月16日以降でみると軒並み上昇しています。

【図表2】 菅政権発足以降の総合商社8社の株価
出所:QUICK

1位は豊田通商(8015)でした。1987年に米国で風力発電事業を始め、英国やイタリア、スペインなどの欧州圏やアジアにも展開し、風力発電がグループの再生可能エネルギー事業で最も規模が大きいエネルギー源となっています。太陽光や水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギー事業も世界で展開しています。2021年3月期の連結決算(国際会計基準)は純利益が前の期に比べ微減にとどまり、1割減ったとの会社側の予想を上回りました。2022年3月期は11%の増益を見込んでいます。総合商社のなかでも業績に安定性があるうえ、脱炭素に向けた動きの恩恵を受けやすいとの見方があるようです。

2位には丸紅(8002)が入りました。発電事業に強く海外の火力発電プロジェクトを収益源としていますが、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする長期目標を3月に発表しました。石炭火力発電所の設備容量を2025年までに半減させる一方、グループ内で保有する森林資産の拡大やCO2回収などで削減しきれない分の温暖化ガスを吸収する方針です。

もっとも、株価はPBR(株価純資産倍率)で会社の解散価値(借入金を全額返済した後に残る資産)とされる1倍に届いておらず、成長期待というよりは業績回復への期待が株価を押し上げたようです。

今回は脱炭素社会で苦戦が見込まれる企業の取り組みなどをご紹介しました。

脱炭素社会の実現まではエネルギー源を石油や石炭に依存する構図は続きます。石油や石炭が主力事業でも業績が好調であれば株価は上がるというのは、日本コークスの上昇ぶりをみても明らかに思われます。

テーマが業績に対して逆風になるようにみえても、投資家は業績をにらんで投資判断を下しています。投資テーマだけでなく、業績動向や事業内容をしっかり見極めて投資につなげたいですね。