みなさん、こんにちは。日経平均は高値圏でのもみ合いが続いています。なかなか3万円台が定着しない一方、大崩れもないという状況です。
コロナ第4波という懸念はあるものの、海外では高いワクチン効果を示す指標も出始めました。コロナを克服と言うにはまだおこがましいところですが、コロナ発生から1年が経って、対応はやはり着実に進んできたということでしょう。ニュースフロー面での追い風局面にあるとの見方を継続しています。
ただ、東アジア圏において地政学リスクもにわかに高まってきたことは懸念要因です。この地域を含むグローバルな包括的経済連携は冷戦時代の対立構造とは桁違いであり、どこかで落とし所を模索する動きが加速することになるのでしょうが、将来のリスク要因として頭の中に入れておかなければならないと私は考えています。
未来への可能性を秘めた超高速次世代コンピュータ
さて、今回は「量子コンピュータ」をテーマに採り上げてみたいと思います。
この言葉は最近株式市場で注目され始めたものですが(技術者からは既にかなりの注目を集めています)、相場テーマとして認識されるにはまだ早いというのが現状でしょう。
遠からず、このテーマが株式市場の注目を集める可能性は高いと筆者は考えています。イメージとしては、5〜10年前のAIや5Gの台頭といったところでしょうか。技術的なブレイクスルーを頭では理解できても、それによって世の中がどう変わるかの具体的な想像ができないために、まだまだ株式市場ではピンと来ない段階に位置付けられているのかもしれません。今回のコラムでは、相場テーマとして注目が集まる前に、まずはおさらいをしておこうというのが狙いです。
そもそも量子コンピュータとは何でしょうか。極めて乱暴な言い方をすると、「次世代のコンピュータであり、革新的な演算速度を実現するもの」となります。2020年、米国のある研究グループが世界最速のスパコンで1万年を要する計算を量子コンピュータは4分未満で実行できたと発表しました。この驚異的なスピードから、量子コンピュータが如何に革新的な可能性を秘めているかがわかっていただけるでしょう。
これまでコンピュータの処理速度は加速度的に高速化が進んできましたが、それは主として電子部品や電子材料の高度化・微細化が牽引してきたものでした。しかし、これらの高度化・微細化は物理的にはほぼ限界が近づいていると言われており、これにより一段上の性能改善を実行するには別のアプローチが求められる状況となっていたのです。
量子コンピュータは量子力学的な物理現象を用いて演算を行うことで、これまでのコンピュータ(古典コンピュータ)を超える処理能力を確保しようという試みなのです。わかったようなわからないような説明ですが(笑)、新しいアプローチを用いた超高速次世代コンピュータと思っていただければ、まず間違いないでしょう。ただし、現時点ではまだ完全な量子コンピュータは未開発の段階であるため、今後どういった形で社会に普及浸透し、そして貢献していくかは予測がつかないというのが実態です。
普及までの時間軸と古典コンピュータ領域にも注目
では将来、量子コンピュータが普及する前に、投資家は何に注目しておくべきでしょうか。究極的には量子コンピュータから得られたデータと、それを使った新サービスにこそ投資の醍醐味があると位置付けますが、現時点では全くそれらのイメージが湧きません。
そこで、ここでは量子コンピュータのハード面に焦点を絞って考えてみたいと思います。まず当然のことながら、時間軸の把握は欠かせません。如何に素晴らしい技術でも、実用化までに今後100年かかるのであれば株式市場は当面見向きもしません。
先ほどは5〜10年前のAIや5Gのようだ、と私のイメージをお伝えしましたが、本当にそうなのか、前倒しとなっていないか、または先送りになっていないかなど状況を随時確認しておく必要があるでしょう。
そして、私が次に考えるのは、古典コンピュータの進化です。そもそもスパコンを上回る処理能力を必要とするユーザーの数は普及当初においてはかなり限定的だったと思います。そのため、現実的には、古典コンピュータ以上、量子コンピュータ未満といったレベルのニーズが広がり、そして徐々に量子コンピュータが主流になっていくのではないでしょうか。かつてアナログ回線から光ファイバーへと通信回線が移行する際に(アナログ回線を活用した)ADSLという過渡期に登場した技術があったように、です。
同様に、古典コンピュータ領域でも画期的な進化が進み、(やがては量子コンピュータに置き換わるのだとしても)大きく市場を形成する新製品が出てくるのではないかと考えています。量子コンピュータに至るまでの過渡期的な相場として、それらの技術が注目される可能性は高いと考えています。
そして、量子コンピュータメーカーそのものにも投資をしたいところですが、おそらくこれらの基礎技術は既にテクノロジーの巨人とも言える企業群がかなり先行して進めているというのが現実です。特許などの蓄積も進んでいるでしょう。
ヤフーに挑んだグーグルという例もあるかもしれませんが、新しい企業群が量子コンピュータ領域で彗星のように出現するという可能性はあまり高くないのではと考えています。
あるとすれば、テクノロジー会社よりもそれを実現するために必要な素材や材料などを生産しているメーカー群になるのではないでしょうか。エジソンが白熱電球のフィラメントに日本の竹を使用して圧倒的な耐久性を実現したように、です。
残念ながら現時点でどういった素材が今後注目されるのかは皆目見当がつきませんが、日本は伝統的に素材・材料分野に強い企業群を誇っています。量子コンピュータの世界においても、日本企業の素材がその存在感を発揮する、というシナリオに期待したいところです。