脱炭素社会を実現するには、二酸化炭素(CO2)を排出するガソリン車による人々の移動も根本的に見直す必要があります。日本では自動車を含む「運輸」のCO2の排出割合が2割弱を占め、「産業」に次ぐ3位となっています。世界で進む脱炭素化は、ガソリンやディーゼルで動く自動車の販売を将来的に禁止する方向に向かっています。
菅義偉首相は2021年1月の施政方針演説ですべての新車販売を電気自動車(EV)などの電動車へと転換する時期を「2035年まで」と明言しました。欧州連合(EU)が2020年から21年にかけて段階的に導入するCO2排出規制も電動車の販売比率を高めなければ巨額の罰金を課される厳しいものです。巨大市場の中国でも2035年までにガソリン車の新車販売を停止する方針です。ガソリン車からEVへーー。株式市場では世界の潮流に乗り遅れまいと様々な関連銘柄に資金が向かっています。
EVなどの電動車が2030年に販売の主流に
米ボストン・コンサルティングの試算によると世界の新車販売台数に占めるEVの割合は2025年に30%を占め、2030年には51%と半数を超えると見込まれています。エンジンという内燃機関を持たないEVは必要な部品が3万点にのぼるとされるガソリン車に比べ、部品点数が4割ほど減少するとされています。製造への参入が容易になり競争が激化するとの見方から、モーターや電動パワーステアリングシステムなど多くのEV向け部品を手掛ける日本電産(6594)の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「過半数がEVになれば車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と予言しています。
株式市場では競争激化への懸念から完成車メーカーには資金が向かいにくい一方、基幹部品を手掛ける銘柄は買われています。「電気自動車」関連銘柄のうち、菅義偉政権が発足した2020年9月16日以降の上昇率が高い上位10社は以下のようになります。
物色は自動車メーカーより部品メーカーに
完成車メーカーではマツダ(7261)が38.0%上昇し次点の11位に食い込みましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う販売不振への懸念で売り込まれていた水準から値を戻したにすぎません。株価はPBR(株価純資産倍率)で会社の解散価値(借入金を全額返済した後に残る資産)とされる1倍を大きく下回っています。
一方、首位に入ったのはモーターの中心部品であるモーターコアを手掛ける三井ハイテック(6966)です。同社によると全世界市場のシェアは7割といい、ハイブリッド車(HV)やEVの普及が追い風になるとの見方からPBRは3倍を超えています。2位の太陽誘電(6976)は自動車に搭載する半導体点数の増加を背景に、積層セラミックコンデンサー(MLCC)などの需要が拡大するとの期待からPBRはやはり3倍前後まで切り上がっています。
当面主力のリチウムイオン関連も上昇
EV普及のカギを握るのが、モーターを動かす電池の大容量化や性能向上です。トヨタ(7203)の「ミライ」のような燃料電池車はコスト面などから今のところ少数派で、ガソリン車やディーゼル車にとって代わるのは当面EVということになりそうです。EVの基幹モーター用に搭載されているのは軽くパワーがあり、熱に強いリチウムイオン電池です。材料であるリチウムの採掘や精製で大量のCO2を排出するという問題も抱えていますが、関連銘柄への物色は旺盛です。「リチウムイオン電池」関連銘柄の上昇率上位10社は以下の通りです。
1位と3位は前回の記事(カギ握る再生エネルギー、普及期待でレノバの株価は3倍近くに)で紹介した「電池・電池材料」の2社でした。2位の古川電池(6937)は実はEVを駆動するためのリチウムイオン電池は扱っておらず、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている衛星向けなどを製造しています。ただ社名があらわすように自動車用では鉛蓄電池を手掛け、産業用電池や電源装置事業も抱える同社が脱炭素の一翼を担うとの期待があるのは間違いありません。4位の東海カーボン(5301)はリチウムイオン電池の負極材を手掛けています。リチウムイオン電池は正極と負極を持っており、その間をリチウムイオンが移動することで充放電します。主要材料を手掛けていることで業績拡大への期待を誘ったようです。
今回は「電気自動車」「リチウムイオン電池」関連銘柄の菅政権発足以降の上昇率上位をご紹介しました。実は古川電池は2020年12月に「当社に関する一部報道について」というニュースリリースで、「EV駆動用リチウムイオン電池事業を行っておりません」と表明しています。主要メディアでEV駆動用電池を手掛けているとの誤解を与えかねない記事が掲載されたそうです。テーマに沿った銘柄選びは時流に乗るという意味で理にかなっていますが、本当にその銘柄がテーマに基づいて売買されているかどうかは慎重に見極める必要がありますね。