電力部門の脱炭素化は「大前提」

2050年の脱炭素社会の実現を目指す「グリーン成長戦略」では、電力部門の脱炭素化を「大前提」としています。日本の二酸化炭素(CO2)の部門別の排出割合は、電力由来が4割弱を占め最大です。最大の排出部門を脱炭素化しなければ、カーボンニュートラルの実現は絵に描いた餅になりかねません。政府が2050年に描く電源構成は過半を太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーが占めます。2019年度時点で2割に満たない再生可能エネルギーの構成比を大幅に引き上げる方針を受け、株式市場では関連銘柄の一角が早くも物色されています。

洋上風力を「成長分野」に位置付け

再生可能エネルギーのなかでもグリーン成長戦略で「成長分野」と位置付けたのが洋上風力発電です。風力発電は電気エネルギーへの変換効率が高いうえ、太陽光発電とは異なり昼夜を問わず稼働できます。発電コストも大規模化できれば火力発電並みに抑えられます。設置場所が限られる陸上風力に対し、周囲を海に囲まれている日本では洋上風力の方が導入しやすいというわけです。政府は現在ほとんどない洋上風力の発電出力を2040年に計4500万キロワットまで増やす計画です。日本経済新聞グループの金融情報会社QUICKがニュースや決算短信などから独自に選定した「洋上風力発電」に関連する銘柄のうち、菅義偉政権が発足した2020年9月16日以降の上昇率が高い上位10社は以下のようになります(2021年3月11日時点)。

【図表1】
出所:QUICK

関連銘柄は再生可能エネルギーによる発電所を開発・運営する企業と、発電所の機器を手掛ける企業に分かれます。首位のレノバ(9519)は再生可能エネルギーの発電施設を開発・運営し、電力会社を通じて電力を供給しています。政府の方針を受けて、同社の洋上発電の容量が高まるとの期待から株価は3倍近くになりました。2位の日立造船(7004)は大型風力発電で新規の事業地開発から建設、事業運営まで一貫して取り組み、洋上風力では基礎構造物の設計、製作、据え付けを手掛けています。

日本企業はメガワット級の大型風力の基幹部品である風車の製造から撤退していますが、2月には東芝(6502)が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と基幹設備を共同生産する提携について交渉を進めていると伝わっています。数万点の部品で構成する洋上風力発電は関連産業が幅広く、政府は2040年までに国内の部品調達比率を60%にする目標を掲げています。部品を手掛ける企業の業績にも影響を与えそうです。4位に入ったフジクラ(5803)は風力発電で得た電力を送電網へとつなぐケーブルを手掛けており、関連銘柄として材料視されたのかもしれません。

普及の要は「蓄電池」

再生可能エネルギーは天候に発電量が左右され、出力が不安定です。送配電網には容量があり、それを超える電力は供給できません。再生可能エネルギーの活用には発電量の変動を緩和し、安定した電力供給につながる蓄電池も欠かせません。カーボンニュートラルの達成には温暖化ガスを出さない電気で社会を回していく必要があり、蓄電池はそのための要と言えます。「電池・電池材料」の関連銘柄の上昇率上位10社は以下の通りです(2021年3月11日時点)。

【図表2】
出所:QUICK

トップとなったのはニッポン高度紙工業(3891)です。薬剤を煎じる袋などとして販売していた手すき紙に粘性の有機液体を浸した「高度紙」が、電気を一時的に蓄えたり放出したりするコンデンサーの絶縁紙に採用され世界シェアは60%を誇ります。EV(電気自動車)などの車載用電池向けの絶縁紙にも進出し、成長しています。2位のGSユアサ(6674)は鉛電池大手ですが、リチウムイオン電池も手掛けており北海道の風力発電所に世界最大規模の蓄電池を設置しています。太陽光発電システムも手掛けており、幅広い分野で蓄電システムが活用されるとの期待が高まっています。

この回では「洋上風力発電」「電池・電池材料」関連銘柄の菅政権発足以降の上昇率上位をご紹介しました。いずれも脱炭素社会の実現に向けた重要なテーマですが、株価の価値を決める最大の要因は企業の業績です。テーマに着目した投資で人気化し、中には年間の1株当たりの利益の100倍余りまで買われている銘柄もあります。テーマ以外に多くの事業を抱えている企業も多く、最終的な業績への貢献度合いを見極める必要もあります。テーマだけでなく、企業の成長ストーリーも頭に描きながら投資判断をしていきたいですね。