海外のアクティビストが、日本企業に投資する動きが広がっています。市場での評価が低い企業に投資して経営改革を迫り、株価を上昇させることが狙いです。

アクティビストは一般的に企業経営者から恐れられる存在ですが、機関投資家を中心に賛同する投資家が増えています。今回はアクティビストの存在の変化や、海外アクティビストが日本市場を狙う背景について解説します。

アクティビストはイベント・ドリブン型のヘッジファンド

アクティビストとは一般的に数%の株式を取得し、企業に株主還元の強化や経営改善を働きかけ、数ヶ月~数年後に株式を売却してリターンをあげる投資家を指します。アクティビストは「物言う株主」とも呼ばれ、株主の権利をフルに活用し、事業提案などを経営陣に積極的に働きかけます。

また、アクティビストは、イベント・ドリブン型のヘッジファンドの一種です。イベント・ドリブンとは、企業の再編や提携、合併・買収といったイベントを利用して収益を得る手法です。こうしたイベント時には株価が大きく変動するので、その値動きを収益機会として狙います。

アクティビストは、値ごろ感のある株式を取得して企業と交渉し、株価が上昇した段階で売却して利ざやを稼ぐのです.

アクティビストとプライベート・エクイティとの違い

同じ企業の株式に投資するファンドとして、プライベート・エクイティがあります。アクティビストとプライベート・エクイティの違いは、投資対象企業の株式の保有割合に現れています。アクティビストファンドは数パーセントから20%程度の株式を保有するのに対し、プライベート・エクイティは5割以上の株式を保有します。

プライベート・エクイティ・ファンドは、経営権を取得した上で企業の価値を高めて売却することを目指しています。

一方のアクティビストは株主提案をしますが、経営権の取得は目指しません。ただ、アクティビストが投資対象企業に経営陣を送り込むケースも増えており、アクティビストとプライベート・エクイティの業界の区分けは明確でなくなってきています。

2020年の株主総会ではアクティビストの提案が過去最高に

株主関連サービスのアイ・アールジャパンホールディングスのまとめによると、2020年6月22日時点でアクティビストから株主提案を受けた企業は23社となり、過去最多だった2019年の16社を上回ったとのことです。

2020年3月にコロナショックで株価が大きく下がりましたが、株価下落はアクティビストにとって狙いをつけていた企業を仕込む絶好の機会となったのです。そして、コロナ禍においても株主還元を行うよう企業に提案しています。

なぜ海外のアクティビストは日本市場を狙うのか

日本で「物言う株主」という言葉が使われるようになり、アクティビストの存在感が意識され始めたのは2000年以降です。通商産業省(現在の経済産業省)出身の村上世彰氏が率いる村上ファンドの登場がきっかけになりました。

村上氏は「株主の利益を重視し、資本効率を高めるべき」と声高に唱え、株主総会での委任状争奪戦(プロキシーファイト)も辞さない姿勢を示しました。

しかし2006年に村上氏はライブドアによるニッポン放送株の大量取得に関連し、インサイダー取引の容疑で逮捕されました。翌2007年にはブルドックソースのポイズンビル(買収防衛策)の無効を訴えた米系投資ファンドのスティールパートナーズが敗訴し、アクティビストの存在感は低下しました。さらに2008年のリーマンショックにより、アクティビストは勢いを失ったのです。

しかし、2014年に制定された「日本版スチュワードシップ・コード」と2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」によって、風向きは大きく変わりました。2つのコードは、資産運用会社と上場企業にプレッシャーをかけることで企業価値の向上、つまり株価の上昇を意図したものです。

スチュワードシップ・コードによって、機関投資家は株主総会で株主価値の向上を第一に考えた行動をしなくてはならなくなりました。ですからアクティビストからの提案に対し、企業価値の向上に結びつく内容には賛成票を入れるようになったのです。

2000年代のアクティビストは対象企業の株式を買い集めて株主提案を行い、経営陣に自分たちの要求を圧力によって経営陣にのませる傾向が多く見られました。しかし、株主価値の向上につながる提案を出すことによって機関投資家の賛成を得られるようになったので、少数の保有株比率でも経営を動かせる戦術が可能になりました。

こうしたアクティビストが活躍できる環境が整ってきたことや、世界的な金余りを背景に、海外の大手アクティビストが日本市場に続々と参入してきています。

現在のアクティビストは対話型の交渉が中心に

2000年代のアクティビストは、企業の株式を10%から半数程度まで取得し、敵対的TOBを仕掛けるなど、強圧的な態度が目立っていました。提案内容も保有株式の売却や、増配・自社株買いなど株主還元強化を提案し、短期的な利益を追求していました。

そのため、以前のアクティビストは、「グリーンメーラーにすぎない」との非難もありました。グリーンメーラーとは、経営に参画する意思がないのに経営陣に揺さぶりをかけ、割安な価格で入手した株式を高値で売って利ざやを稼ぐ業者のことです。

しかし2010年代に入ると、アクティビストの姿はガラリと変わります。取得する株式を5%以下に抑えながら機関投資家の賛同を得るための提案をし、保有する議決権にレバレッジをかけることで提案を通す動きが中心になってきました。

そのような中で、アクティビストは他の株主も同意できるよう対話(エンゲージメント)を重視し始めています。提案内容も、取締役選任や事業戦略などガバナンス改革にまで踏み込む手法が増加しています。

2020年の株主総会では、香港のヘッジファンド「オアシス・マネジメント」が三菱倉庫に対し、社外取締役の選任や相談役・顧問制度の廃止を提案しました。オアシス・マネジメントは三菱倉庫の社外取締役全員が三菱グループの関係者であることを問題視し、三菱グループ外からの選任を求めました。

また、米系投資ファンド「ファーツリー・パートナーズ」はJR九州に対し、取締役の選任や不動産事業の収益開示などを求めました。

現在のアクティビストは社内にアナリストを抱え、徹底的に投資先企業を分析し、理詰めで他の株主の同意を得ながら要求を通そうとしています。

国内の株式市場は、日経平均株価が3万円を超えるなど堅調な展開が続いていますが、米国企業などに比べると割安株が多く、増配や自社株など株主還元をする余地が残っていると見られています。よって、アクティビストの活動は今後もますます活発になっていくでしょう。