前回の記事では東証の市場改革を新たな投資機会とするため、自分が投資したい条件に合った企業を探す「スクリーニング機能」の活用方法をご紹介しました。100近い条件の中から銘柄の絞り込みを行えるスクリーニング機能は、非常に便利な機能です。一方、使い慣れていない方にとっては、やや取っつきにくい機能かもしれません。今回は、便利なスクリーニング機能の効果的な活用方法の続きをご紹介していきます。
押さえておきたい項目で銘柄を絞り込む
まず、どのようなスクリーニングを行う場合でも押さえておきたい項目は、「基礎情報」という大項目に含まれています。いくつか項目がありますが、特に大事なのは「取引所」、「業種」、「時価総額」です。それぞれの項目の内容は以下の通りです。
「取引所」を絞り込まないと、以下のキリンホールディングス(2503)のように名古屋・札幌・福岡といった東証以外の取引所にも上場している銘柄が複数表示され、少し煩雑です。東証にも他市場にも上場している銘柄は基本的に東証で取引されます。ですので、基本的に他市場を表示する必要はありません。名古屋・札幌・福岡に上場している銘柄を特に調べたいときに東証以外を設定するようにしましょう。
これまで本コラムで取り上げてきた企業は不動産などの資産を持っている企業や、その他にも歴史のある企業が多かったように思います。「不動産業」はその典型ですし、「鉄鋼」、「非鉄金属」、「金属製品」、「機械」などには歴史のあるメーカーが多いため、候補を見つけやすそうです。
一方、最近、楽天(4755)が日本郵政グループなどと業務資本提携を発表し、株価が大きく上昇しました。これは、楽天のサービス・顧客基盤が郵便局のチャネルでさらに活用できると期待されてのことだと思いますが、「情報・通信業」、「サービス業」といった項目に絞って同様の企業を探すのも面白そうです。
時価総額について知っておきたい2つのポイント
時価総額は企業の価値を示します。企業の価値は一般的には現在の利益水準と将来の期待度を示すと考えられます。そのため、時価総額の高い企業は利益水準が高いか、もしくは将来が期待されている企業ということになります。
投資先を判断する際に時価総額について知っておきたいことが2つあります。1つは時価総額が大きい企業ほど安定している一方、大きな変化は期待しにくいということです。例えば、株価が10倍になるような企業を探したい場合は、時価総額が低い企業から探したほうがそのチャンスは大きそうです。
もう1つは時価総額が大きい企業ほど様々なビジネスを行っているということです。一般的に様々なビジネスを行っている企業の方が安定度は高いでしょう。一方、様々なビジネスを行っている企業に投資するということは、本来自分が投資したいビジネス以外にもまとめて投資するということです。
例えば、明治ホールディングス(2269)は明治製菓と明治乳業が統合した企業で医薬品事業も大きい企業です。一方、森永製菓(2201)と森永乳業(2264)は今も別々の企業です。ですので、森永製菓のビジネスや森永乳業の資産に興味があって投資を考える場合は、一方にだけ投資すればよいのです。一方、明治グループの場合は投資しようとする場合、製菓や乳業、製薬にまとめて投資せざるを得ないことになります。
個人投資家の方が銘柄選びをする上では、あるグループのグループ経営に魅力を感じて投資をするというよりは、個別の商品、ビジネス、資産などに魅力を感じることが多いのではないでしょうか。そういう意味では本来投資したい企業に投資できる、時価総額の小さい企業のほうが面白いのではないかと思います。
また、あえて銘柄選びをするのであれば、安定度を重視するよりは、その銘柄選びの成果が現れやすい企業の方が良いのではないでしょうか。つまり、時価総額が相対的に小さい企業のほうが銘柄選びを行う意味があるように思います。投資方針などによって、結論は様々ですが、安定度を重視するのであれば個別の株式より投資信託など他の選択もあるのではないでしょうか。
例えば、業種が食料品の企業で時価総額が1兆円を超える企業をスクリーニングすると以下のようになります。アサヒ(2502)やキリン(2503)はビールを中心に総合的に酒類、さらにソフトドリンク事業も大きく、アサヒはカルピスも傘下に収めています。カルピスはもともと味の素(2802)の傘下でした。各社とも海外進出にも積極的で、どの企業に投資する場合もかなり幅広いビジネスに投資していることになります。そういう意味では、サントリーグループの酒類以外を手掛けているサントリー食品インターナショナル(2587)のほうが投資したいビジネスに投資できるということになりそうです。
業種を「食料品」とし、時価総額を「1兆円以上」でスクリーニングすると、結果は7社でした。
一方、時価総額を500億円以下にしてスクリーニングすると72社がヒットします(2021年3月16日時点)。こちらは例えば、「永谷園(2899)」、QBBのチーズでおなじみの「六甲バター(2266)」、「ブルドックソース(2804)」、シーチキンの「はごろも(2831)」、「養命酒(2540)」、おつまみの「なとり(2922)」、スナック菓子の「湖池屋(2226)」、中華まんの「中村屋(2204)」、キムチ・漬物の「ピックルスコーポレーション(2925)」、「モロゾフ(2217)」、ジャムの「アヲハタ(2830)」、ドレッシングの「ピエトロ(2818)」、キャンディー・グミの「カンロ(2216)」、のりの「大森屋(2917)」など、いずれも先ほどの企業に比べると、取扱商品が絞られており、よりビジネスが明確な企業が多いように思います。
これらの企業も多角化に努めており、海外進出している企業も多いです。しかし、主要ビジネスの売上が全体の半分を超えるような企業が多くなっています。時価総額が小さい企業のほうが投資先として面白味のある企業が出てきやすそうだということを、ご理解いただけるのではないでしょうか。
「単推し」に近い企業を探すことが自分の投資アイデアを実現することに
アイドルグループなどを応援する際に、グループ単位で応援する「箱推し」や、個別のアイドルを応援する「単推し」、「DD(誰でも大好き)」など色々な概念があります。時価総額の大きい企業はどちらかというと「箱推し」にならざるを得ず、「単推し」ができないのです。
例えば、リクルートホールディングス(6098)は「スタディサプリ」というオンライン学習サービスを展開しています。テレビCMなどの広告でこのビジネスに注目して、リクルートHDに投資する方もいるでしょう。しかし、リクルートHDのビジネスは人材ビジネスが非常に大きく、仮に「スタディサプリ」が大成功しても、人材ビジネスが不調に陥れば業績的には厳しくなりそうです。
また、リクルートHDは「じゃらん」など旅行関連ビジネスも大きく、その業績に左右されることもありそうです。ですので、このような場合は、教育サービスをメイン事業として展開している、より「単推し」に近い企業を探すことが自分の投資アイデアを実現することに近づけるのです。
それでは次回は、より具体的に、このような企業を他のスクリーニング項目でどのように絞り込むかを解説したいと思います。