2020年後半から21年にかけ日本だけでなく世界の主要な二酸化炭素(CO2)排出国が脱炭素目標を掲げ、世界が「カ-ボンニュ-トラル」へ向かう流れが決定的となりました。日本の宣言のほぼ1ヶ月前、世界最大の排出国である中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が2060年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を国連総会の一般討論で表明しました。これまで新興国の立場であるとして先進国に先行して取り組むよう促してきた中国の方向転換は世界に驚きを誘いました。バイデン米大統領も2050年に実質ゼロの目標を掲げています。今回は世界で広がる脱炭素の動きにおける日本の現状を確認します。
日本経済の脱炭素は米国やEUから「周回遅れ」
残念ながら日本経済の脱炭素は米国や欧州連合(EU)に比べると「周回遅れ」と言わざるを得ません。省エネ技術の広がりなどを受け、経済活動に伴うCO2排出量は世界的に減少してきました。国内総生産(GDP)を1ドル生み出すために排出するCO2の量は1990年から2018-19年にかけて欧米ではともに51%、排出量が日本を上回っている中国でも65%減少しました。これに対して日本の減少率は26%と欧米の約半分にとどまっています。日本の遅れの主因は電力です。欧州では再生可能エネルギ-の普及、米国では天然ガス発電の広がりが排出量削減につながりましたが、日本は火力発電への依存度の高さが足かせになっています。
「グリ-ン成長戦略」で目指す巻き返し
日本の脱炭素政策の停滞は、東京電力福島第一原子力発電所事故をきっかけとした原子力への不信感などによるものです。再生可能エネルギーも送電網に接続する制度づくりの遅れなどから欧州に比べ普及が進んでいません。こうした現状を巻き返すべく菅義偉政権は2020年12月に「グリ-ン成長戦略」をまとめました。温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロにするための対策を「『経済との好循環』を作っていく産業政策」と位置づけ、洋上風力発電や水素産業、自動車・蓄電池産業など14分野を「成長が期待される産業」としてあらゆる政策を総動員していくと強調しています。
投資を通じて脱炭素を促す動きも
政府は野心的な目標達成に向け2兆円の基金をつくり、脱炭素社会の実現に向けた企業の研究開発を後押しする方針です。税制面でもカ-ボンニュ-トラルに向けた設備投資などを優遇し、240兆円にのぼるとされる企業の現預金を投資に向かわせる姿勢を鮮明にしました。民間の投資資金の呼び込みも狙います。世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などESG(環境・社会・企業統治)を重視する投資家の資金は国内で約300兆円あるとされています。企業は投資家からの支持を得るために行動を迫られており、官民の動きが脱炭素社会の実現に向けた起爆剤になるかもしれません。