まず2020年を振り返って

 2020年は世界的に大変な年でした。米国で起きたことを振り返ってみますと、5月にはミネソタ州で 黒人の ジョージ・フロイド氏が白人の警官に殺されたのをきっかけに起きたデモが全米に広がりました。警察に対する抗議活動では、一部が暴徒化し商店が荒らされ、警官との暴力的な騒ぎになるなど、一連のテレビ報道などを見ると、頭の中に、『果たしてこのような国に投資をして良いのか』という考えがよぎった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

コロナ禍において、米国では米国政府の責任において経済を止めました。米国の4月の失業率は14.7%まで悪化、2050万人の人が職を失いました。

コロナ感染者数は米国では急ピッチで増え、現在では1700万人を超えて世界最大の感染者数を出し、亡くなられた方の数は30万人を超えると大惨事となっています。

このような悲惨な国内情勢にもかかわらず、2020年の2月に暴落した米国株はスピード回復を果たし、8月には史上最高値を更新しています。12月17日時点で、S&P500指数は年初から約15%上昇、ナスダックは約42%上昇しています。

私も30年以上米国株の市場を見ていますが、今回米国のマーケットはすごく前向きだと思いました。市場を動かしたのは、2021年は2020年より良くなるだろうという、来年への強い期待感です。

2021年の米国株式市場は

 節目節目で通常の株価調整はあると思いますが、トレンドとしては2021年も米国株は上昇すると考えています。最初に結論を申し上げますと、S&P500指数は、2022年の予想EPS(1株辺り利益)の20倍を超えるPER(株価収益率)のレベルまで買われるのではないかとみています。FRB(米連邦準備制度理事会)がゼロ金利政策をとっていること、また、潤沢な流動性の供給を行っていることから、リスク資産である株式は上昇しやすい環境となっています。企業業績の方はと言いますと、2020年のS&P500指数のEPS(1株辺り利益)は前年比15%の減益ですが、2021年には同22%の増益の予想となっており、2022年は同17%の増益予想というのが現時点での市場のコンセンサスとなっています。

 そのような環境下、米国株は歴史的なバリュエーションを超えるレベルまで上昇するとみています。適正なバリュエーション水準は、予想EPS(1株辺り利益)の20.5倍近辺でしょうか。20倍は超えますが、21倍までは上がらないという考えです。株価は一年先の収益予想をうかがいながら評価されますから、S&P500指数は2022年のEPS(1株辺り利益)である200ドルの20.5倍である4,100ポイントが視野に入ります。これは12月17日の終値である3,722ポイントから約10%の上げです。

コロナ禍の中、米国企業はもしもの備えで内部留保を増やしてきました。ビジネスの環境が良くなってくるであろう来年になると、企業は自社株買いや増配、それから成長の為のM&Aが活発化するのではないかと思います。米国企業はコロナ禍のなか、将来の成長のためのコスト削減も行ってきましたので、米国経済がリバウンドする過程で、利益率の拡大が起きることが予想されます。

ねじれの政権

 大統領は民主党のバイデン氏で決定、議会の方は下院では民主党が主導権を握ることが確定しました。2021年1月5日のジョージア州の上院議員選挙の結果をうけ、上院は共和党が主導権を取るかが確定します。現時点では上院は共和党が過半数をとり主導権を握るとみられています。

このねじれの状況をマーケットは好感していますが、これは、バイデン氏がやりたかった増税や規制強化を元々の形で行うのは難しいだろう、という安堵感があるからです。

また、8月初旬から民主党と共和党が合意すると思われていた経済対策も今回やっと両党の合意に達しそうな雰囲気で、これについても株式市場は好感しています。

新財務長官にはマーケットフレンドリーなイェレン氏が

 バイデン氏は、次期政権の財務長官に元FRB(米連邦準備制度理事会)議長のジャネット・イェレン氏を任命しました。株式市場は、マーケットフレンドリーなイェレン氏の人事発表を好感しています。

貿易戦争の終焉 

 トランプ大統領は、分かりやすく言うと喧嘩腰の貿易交渉を行ってきたと思いますが、バイデン氏は、もっと政治家らしく外交的に上手な貿易外交を行うとみられています。これは決してバイデン氏が中国に甘い対応をとるという事ではなく、あくまでも交渉のやり方の違いです。

トランプ政権下で引き上げられた関税は、見直しの方向に向かうことでしょう。

これは、米国企業の業績にとってもプラスに働くとみられています。

インフラ投資

 バイデン氏は、米国の老朽化したインフラ施設の近代化を公約に掲げています。米国のインフラ投資は、決してバイデン氏だからやりたい訳ではありません。米国では、今まで本来行われるべきであった必要なインフラ投資が行われてきませんでした。本来ですと、トランプ大統領が再選されていたとすれば、トランプ大統領も似たようなインフラ投資に手を付けていたはずです。

バイデン氏については、選挙の公約となっていますので、割と早いタイミングでインフラ投資の計画を発表するはずです。恩恵を受けるのは株式市場の一部のセクターかもしれませんが、マーケットにとって良い話であるのは間違いないでしょう。

結論

 このような環境下において、 1年後の株価は最初に説明させて頂いた通り、S&P500指数は今のレベルより10%程度高い4,100ポイントへ上昇しているのではないかと考えています。この予想にリスクがあるとすれば、それはむしろこの見方が控えめだということだと思います。

史上最高値を更新している今のマーケットは、テクニカルにみて買われ過ぎの領域に入っていますので、来年に入ってから何らかの調整は起きると思います。このような調整は、米国株式市場が長期に渡って上昇するにあたり必要な調整です。あっても最大10%程度のものではないかと思います。 このような調整は通常のマーケットにおいてもごく普通に起きうる調整です。

米国株式市場にとってのリスクは

 リスクについては、2020年はコロナという誰も想像もしなかったブラックスワンが現れました。

2021年のリスクとしましては、バイデン氏の高齢からくる大統領辞任の可能性があげられます。

コロナワクチンがあっても、ワクチンが何らかの理由で米国民に行き渡らないということもあるかもしれません。また、ワクチンがあっても受けたくないという人もいるでしょう。ひょっとすると副作用のリスクもあるかもしれません。 このようなニュースは、マスコミに報道されることにより、いわゆる(メディアによる報道の)ヘッドライン・リスクとして、マーケットは嫌がるでしょう。ただし、歴史が示してきたように、このような調整は、長期投資家にとっては最高の買い場を提供してくれると思います。