コロナ禍において、日経平均株価は堅調に推移していますが、為替市場では円高基調が続いています。2012年からスタートしたアベノミクスは日銀の異次元緩和政策とともに円安株高の同時進行をもたらしましたが、この相関関係が崩れてきているようです。
為替市場では「リスクオン相場なら円安が進行する」とされてきましたが、今、何が起こっているのでしょうか。
リスクオン相場とは
まず、「なぜリスクオン相場では「円安」になるのか」を知る必要があります。リスクオン相場とは「リスク資産への投資が活発になる」ということです。つまり、「円を現金のまま寝かせておくのではなく、株や債券などの資産に積極的に投資しよう」という意欲が高まる環境になってきたということです。
そのような状況下では、ゼロ金利で金利がつかない円よりも、益回りが期待できる株や、金利の魅力がある債券市場にお金が流れ込んでいきます。コロナ以前は米国の景気が良かったため、米国の政策金利は2.5%まで引き上げられていました。米10年債利回りも2018年には3.2%もあったのです。
まとまった資金を運用する年金など機関投資家らが金利のある海外資産に積極的に投資をすることで、「円売りドル買い」が発生し、円安が進行するのです。
今も株高のリスクオン相場なのに…
コロナ禍の影響により、米国を始めとした世界の中央銀行による量的緩和政策と各国政府による財政出動でマーケットは「過剰流動性相場」となっています。簡単に言うとカネ余り、大量のじゃぶついたマネーが株式市場に雪崩込んでいるような状況です。これは明らかなリスクオン相場の様相を呈しています。
では、なぜ円安が同時に発生しないのでしょうか。その理由はいくつか考えられます。
本邦機関投資家の動きの変化
国内の主要生命保険10社の2020年度下期の運用方針によると、「海外金利の低下を受け、生保の運用を支えてきた外国債券の投資は1兆円規模で減少する一方、日本国債への投資額は通年3兆円規模で増える見通し」と発表されています。
巨額資金を運用する機関投資家が外国債券への投資を減らすということは、円売り圧力が低下するということですね。コロナ禍において、先進国の長期債利回りが軒並み1%を割り込んでしまったことで、海外への投資に妙味がなくなったことが影響しています。
海外勢の日本買い
12月5日の日本経済新聞で、新型コロナウイルス感染再拡大が米欧と比べて抑制されている日本に安心感があるとして、海外から日本へマネーが流れ込んでいると報じられていました。
「日本買い」ということは、米ドルから円に資金が流れているということで、円高圧力が高まっていることが考えられます。
同記事は、「1997年から1998年の間にも、金融危機からの回復を期待した外国人投資家の「日本買い」が株価と円相場を同時に押し上げたという歴史があった」としています。
日本の貿易収支の黒字拡大
貿易収支の黒字が膨らむと円高になります。これは輸出によって得られた米ドルを日本円に戻す際に「ドル売り円買い」が生じるためです。逆に、輸入が大きくなり、赤字が拡大する時には、海外のものを買うわけですから、円を米ドルに替える圧力が大きくなります。
米ドル/円相場が長期的に円高圧力にさらされてきた背景には、恒常的な貿易黒字がありました。ところが東日本大震災後、原発が止まり、高価な液化天然ガス(LNG)の輸入に頼らなくてはならなくなった2011年以降には、米ドル/円相場が大きく円安になりました。
米ドル/円相場は80円台から125円台へと大きく円安となりましたが、日銀の異次元緩和よりも、年間10兆円規模にも膨らんだ貿易赤字が背景にあったとの指摘もあります。
それが今では、足元の好調な自動車輸出などを背景に貿易黒字が拡大しており、これにより米ドル/円相場の円高圧力が強まっているとも考えられるのです。
海外勢の日本買いという側面もあり、円高でも株高ですので、過度に足元の円高を恐れる必要はないかと思います。しかし、やはり100円を割り込むほど円高が進むと、日本当局から牽制があるかもしれません。