公開買付制度の要点確認

前回前々回と2回にわたって、自分の保有銘柄が公開買付の対象になった場合、どのように対応すべきかについてお伝えしてきました。改めて以下の要点を確認しておきましょう。(詳細はバックナンバーの記事をご覧ください。)

・公開買付の実施時には、買付条件、特に買付の上限と下限に注目する
・上限が設定されている場合:上限以上の応募があり、買い付けられない場合を考慮する
・下限が設定されている場合:応募が下限に満たず、公開買付が成立しない場合を考慮する
→買い付けられない場合:公開買付が成立しない場合を考慮して取引所価格と比較する

・公開買付の発表時は、「公開買付への応募」、「取引所での売却」という2つの売却方法がある
・「公開買付への応募」では期間中の取消が可能だが、「取引所での売却」では取消できない
・公開買付の開始後、条件が悪くなることは通常ないが、対抗者が現れて条件が良くなる場合がある
・期間中に行った公開買付の応募はすべて同じ条件で取り扱われる
→取引所での価格が特に有利でない場合、公開買付期間中に急いで売却する必要はない

なかなか複雑ではありますが、特に重要なのは、公開買付期間中は条件の改悪は基本的になく、応募する場合は平等に取り扱われ、取消が可能ということです。

NTTドコモの公開買付での動き

先日、NTT(9432)によるNTTドコモ(9437)の公開買付が発表されました。この公開買付の条件はどのようになっているでしょうか。NTTのプレスリリースに公開買付内容の詳細が示されていますが、先述した要点に関わる部分を見ていきましょう。

まず、今回の公開買付はNTTがドコモを完全子会社化することが目的です。そのため、「買える株はすべて買う」という方針のようで買付上限が設定されていません。一方、完全子会社化のためには、株主総会で完全子会社化の決議を行うためにドコモの全株式の2/3を握る必要があります。

2/3(66.7%)を握れないと公開買付の目的を果たせないので、下限が設定されています。ただ、NTTはすでにドコモ株の66.2%を保有しているため、66.7%に到達するハードルは非常に低く、ドコモ全株式の0.45%を下限としています。

つまり、ドコモの公開買付は上限がないため、公開買付が成立すれば応募したものはすべて買い付けてもらえる、下限はあるもののごく少ない株数のため、公開買付が成立する見通しが高いと言えます。また、公開買付の条件が悪化する(公開買付価格の3,900円で買わなくなる)ことは基本的にないでしょう。したがって公開買付に応募すれば、3,900円で買ってもらえる可能性が非常に高いと言えるでしょう。

この場合、取引所で3,900円未満でドコモ株を買い、公開買付に応募して3,900円で売ればその差分を得られるので、3,900円近くまではその差分をとろうとする買いが集まり、取引所での株価は3,900円に近いものとなります。

実際、ドコモ株は公開買付が発表されてから、3,900円近い水準になっており、9月30日には安値が3,880円、高値が3,895円で取引されています。これは安値で買えば20円、高値だと5円のさやが抜ける水準です。

今回の公開買付の決済の開始日は11月24日のため、9月30日にドコモ株を3,880円で買うとすると、公開買付の手続きを実施した上で2ヶ月弱で20円(約0.5%)の利益を上げられそうです。2ヶ月弱で0.5%なら悪くなさそうですが、取引手数料や公開買付を実施する証券会社への口座開設、株式の移管、申し込み手続きなどの手間を考えると、それくらいが妥当ということなのでしょうか。

冒頭でご説明した「対抗者が現れて条件が良くなる場合がある」というケースに、今回は該当するでしょうか。NTTは公開買付報道直前の2,800円弱から見ると4割高、昨年末の3,000円程度から見ても3割高という“良い価格”での公開買付価格を設定しています。

また、買付総額は約4.2兆円と調達するだけでも困難で、もともとNTTが66.2%を保有している会社であり、支配権を得ることが難しいことを考えると、競合が現れる可能性は低いように思われます。株価が公開買付価格を超えないのも、このような見方が強いからだと思われます。

なお、今回の場合、公開買付に応募するには、公開買付代理人を務める三菱UFJモルガン・スタンレー証券に口座を開設し、同社にその株式を移管した上で、公開買付の申込みを行う必要があります。同証券で申込みを行う場合は書面の提出が必須です。

先述した通り、公開買付が行われる場合、条件が良くなることを考慮して「取引所での売却」を急ぐ必要はありません。ただ、今回のドコモの場合は「公開買付の応募」の手続きの手間と公開買付での売却代金の受取時期を考慮し、「取引所での売却」を選ぶのも合理的かもしれません。

次回はこれ以外の公開買付について見ていきたいと思います。