先週にかけて大幅に上昇した米金利
先週の米ドル/円は一時107円まで反発しました(図表1参照)。これは、米金利が上昇したことが主因でしょう。8月に入り一時0.5%割れ寸前まで低下した米10年債利回りは、先週は0.7%を大きく上回るまで上昇しました。
そもそも、「コロナ・ショック」の世界的な株大暴落が一段落した3月末以降、米ドル/円は日米金利差と相関性の高い状況が続いてきました(図表2参照)。そのような流れの中で、先週米金利が大きく上昇し、日米金利差米ドル優位が拡大する中で米ドル/円も上昇傾向になったということでしょう。
それにしても、なぜ先週米金利は大きく上昇し、そしてそれはこの先さらに続くのか。先週は過去最大規模の米国債入札が行われました。コロナ・ショックを受けた経済対策で財政発動が急拡大した結果、国債発行額が急増、米国債の需給環境は厳しくなっています。供給が急増する国債に対して、需要が追い付かず、国債価格が下落、利回りが上昇するリスクが高まっていることが、先週の米金利大幅上昇の「本質」ではないでしょうか。
さらに、米景気指標も悪化のピークを過ぎ、このところ予想より改善する結果が増えてきました。これも債券が売られ、金利が上昇する要因になっているでしょう。では、米金利上昇は一段と広がるかといえば、それは微妙ではないでしょうか。
先週にかけて米金利が大きく上昇する中で、すでに「上がり過ぎ」気味になってきました。米10年債利回りの90日MA(移動平均線)からのかい離率はプラス10%近くに拡大してきました(図表3参照)。これは、短期的な「上がり過ぎ」懸念が強いというほどのものではありませんが、ただ少なくとも2019年以降では最高のプラスかい離率に近付いてきたことになります。
6月上旬から株反落に向かう前との類似
こういった中で注目したいのが金利と株の関係です。米金利が上昇する中で、米金利に対する米株式益回りで見た「イールドレシオ」が低下してきました。NYダウの益回り/米10年債利回りは5倍程度まで低下してきました(図表4参照)。
ちなみに、6月初め、「イールドレシオ」が同じように5倍まで低下すると、米国株高は一巡し、その後反落に向かいました。米国の債券利回り上昇により、米国株の相対的な優位性が後退している影響が、株価下落をもたらすか注目したいと思います。
また、上述の米国株が下落に転換した6月上旬は、米国株の短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まっているタイミングでもありました。NYダウの90日MAからのかい離率はプラス10%以上に拡大、経験的に「上がり過ぎ」が懸念される状況となっていました(図表5参照)。じつは、この点も最近との類似点の一つです。
米金利上昇により、米国株の相対的な優位性が後退し、その米国株の短期的な「上がり過ぎ」修正が広がったのが6月上旬以降の米国株の下落局面でした。先週にかけて、それと似たような構図になっているため、米国株高一巡、下落リスク再燃となる可能性は注目してみたいと思います。
米ドル/円は、冒頭で述べたように、「コロナ後」の最近にかけては日米金利差と連動してきましたが、両者の関係を昨年まで拡大してみると、金利差より10円以上も高い水準での推移が続いているとも見られなくありません(図表6参照)。これは、昨年夏以降の米金利の大幅な低下にもかかわらず、米ドル/円が高水準での推移となったためです。
米金利が大幅に低下したにもかかわらず、なぜ対円で米ドルは高水準で推移したか。それをある程度説明できそうなのが、昨年夏以降、今年3月「コロナ・ショック」前までの米ドル/円と米国株の相関関係ではないでしょうか(図表7参照)。
簡単な言い方をすると、米金利の大幅低下にもかかわらず米ドル高傾向が続いたのは、米国株投資に伴う米ドル買いが主因だったのではないでしょうか。そうであれば、その米国株の行方は、米ドル/円の先行きを考える上で重要な鍵を握っている可能性があるでしょう。