同じような収入なのに、あの人のほうが貯金が多い。そう気づいて不安や負い目、焦りなどを感じたことはないでしょうか。今回の新型コロナウイルスの感染拡大の局面でも、在宅勤務に切り替わり、残業代・交通費のカットやボーナスの減額などで所得が減り、生活に影響が出た人もいらっしゃるようです。

貯金ができる、できないは、収入の多寡にあまり関係ありません。「あまり」ですが。収入が3千万円以上であれば、影響があると考えられますが、一般的な収入の範囲では…という意味です。では、どのような理由で貯金額に差ができてしまうのでしょうか。

所得格差よりも貯蓄格差

「所得格差」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは収入が多い人と少ない人の境目があり二分されている傾向のこと。その格差よりも問題意識を持たなければいけないのは「貯蓄格差」です。ここでは、貯蓄といっても貯金つまり預貯金という意味合いで述べています。収入が途絶えるような時期を迎えたときや、老後生活に入るとき、貯蓄格差はその後の生活に大きな分かれ目の要素となって表れるのです。つまり、貯金があるかないかにより、暮らし方が異なってしまうことが、貯蓄格差の一番の懸念点となります。

貯蓄は所得より強し。貯蓄により所得をカバーできる、補うことができるということです。今回のコロナにより収入が途絶えた人も、貯金がある人は生活を維持できていました。財政検証で受給額が減る見込みが強くなった年金ですが、年金生活に入っても貯金があれば、切り崩しながら生活を維持することができます。逆に貯金がない場合は、生活が困窮したり、何かしらの社会的な援助を受けたりしなければ、暮らしていけない場合もあるのです。

このように、実は人生の中で「貯金に助けられる」という場面は、何度も訪れます。そのため「年収が多いほうが勝ち」と思われがちでも、生活を守れるほどの「資産があるほうが勝ち」なのです。

年代が上がるにつれ、収入が多くなる人が多いでしょう。すると、使ってもまた入ってくるから大丈夫というような心理が湧いてきて、その結果メタボ家計、浪費家計となりがちです。気が付いたときにはあと数年しか収入を得られないのに、将来の蓄えがないということが珍しくないのです。結果、貯蓄格差で泣きを見ることも十分ありえるのです。

こういった貯蓄格差は、勤める会社や働き方などには左右されず、自分のお金の使い方、生活の仕方に影響されています。ある意味、自己責任であるため所得格差より深刻なのです。

年収300万円、400万円でも1,000万円以上の貯金を作れるワケ

年収が多いから貯められている、年収が少ないから貯められないというケースもないわけではありません。しかし多くの場合、それ以外の理由でお金を「貯められる」、「貯められない」の差が生じています。

実際、実務をしていても年収がさほど高くないという人でも、1,000万円以上ものお金を貯められる場合もあります。貯めるのが得意、そもそも質素でお金を多く使う習慣がないなど、その人なりの特性がある場合もあります。しかしながら、多くはお金のやりくりに危機感を持っており、毎月のお金の流れや収支に敏感な人が多いように感じます。

自分にあるだけのお金で、将来お金が必要な事柄に自分が対応できるよう、浪費は意識して控え、「使うところ」と「使わないところ」のメリハリをつけて貯めているのです。そして大きな金額を貯めるために、コツコツと貯めることができているのです。つまり、目的を達成するためにお金の流れや支出についてきちんと把握し、継続的に貯めるための行動ができているのです。

逆に貯められない人は、目的・目標がはっきりしない、「今、何とかなっている」などと思い、お金の流れなどを把握できていません。また収入が多い人の場合、「平均より稼いでいるから」という余裕や慢心から、財布のひもが緩みやすく、お金を使いすぎる傾向になりがちです。

もし自分が貯蓄格差の中で貯蓄が少ない方にいるという人は、このような差を理解し、どうすると改善できるのかについて考えることで対応策が見えてくるはずです。

「貯めること」はこの数年、さらにその先の未来の自分を守るため

以上のようなことから、貯金はあったほうが、今そして将来のためにもなると再認識されたかもしれません。お金を貯める、つまり貯金だけしていれば良いと思われるでしょうか?もしかすると、将来的にはインフレの影響で、モノなどの価値があがり、お金の価値が目減りしてしまう可能性もあります。

ですので、現金(キャッシュ)があるだけでは不安に思う人も多いでしょう。必要以上に、現金は持ちたくない…という思いを最近はよく聞くようにもなりました。どれくらいあれば、「必要以上」になるのでしょうか。

生活に使うためのお金と、貯めておくべきお金で最低でも、月の生活費の7.5か月分をまず当面の目標にされてはいかがでしょう。それでは不安という場合は1年分程度、人によっては2年分程度を持っていたいという人もいます。インフレのことや、資産の置き方にもよりますが、3年分以上の生活費を!というのは、ちょっと行き過ぎな気もします。もちろんメリットもありますが、現金を持ち過ぎではないかと私は思います。

ある程度の現金が貯まったら、老後資金のような将来に向けたお金を貯めるために、貯金と合わせて投資を始めることをお勧めします。現金が貯まってからでもよいのですが、取り組みやすいのはリスク(不確実性)が低いインデックスファンドなどの投資信託の積立。時間を味方に、複利効果などを利用していく投資法です。1年分などの現金が貯まるまで待っていては「何年もかかる!」、「時間がもったいない!」という場合もあります。ですから、3万円貯金するのであれば、そのうちの3,000円とか、5,000円などの少額から投資を始めてみてはいかがでしょうか。貯蓄することに「出遅れた」と思う人は、これで多少なりとも貯蓄格差を縮めていけると思います。

今後、資産がないことを焦り、後悔し、悩まないためにも、今のうちから「年収」と「本当の意味での経済的な強さ」は異なるものであることを理解し、しっかりと蓄えを増やしていくよう取り組みたいものです。支出を見直したり、無駄だと思った支出をカットしたりと、できることはあるはずです。固定概念を捨て、できるところからコツコツと取り組んで実行していく。それが貯蓄格差に陥らない秘訣と言えるでしょう。