最近しばしば話題になっている言葉に「WPP」がある。これは社会保障分野での権威である慶應義塾大学の権丈善一教授が提唱している「老後生活をまかなうための考え方」を表す言葉である。WはWork longer、すなわちできるだけ長く働くということ、次のPはPublic Pension、これは公的年金のことだ。そして最後のPは、Private Pensionで、サラリーマンであれば企業の退職給付制度、そして個人で準備する貯蓄や投資などの備えのことである。

Work longer:できるだけ長く働くということ

まず、Work longerであるが、人生100年時代と言われている現代において、60歳で仕事を完全に引退してしまうのは時代にそぐわない。多くの企業においては65歳まで定年を延長したり、あるいは定年は変わらなくても再雇用で働く機会が与えられたりという制度になっている。さらに厚生労働省は、2021年4月からは被雇用者が希望するのであれば70歳まで雇用することを企業が努力義務とするよう定めた。かつてのように定年後の寿命が10年程度の時代であればともかく、現在においては少なくとも20~30年の老後期間があることを思うと、可能な限り長く働くということは理にかなっていると言えよう。

したがって、老後の生活に備えた資産作りを考える場合にも、まず“自分が何歳まで働くか”を考えることが重要なキーポイントになる。

Public Pension:公的年金

次に考えるべきなのはPublic Pension、つまり公的年金だ。ところが多くの人が公的年金については正しい知識を持っていない。加えてマスコミや金融機関の多くが「年金不安」を煽っていることを考えると、公的年金に対して無用な不安を持つのは致し方ないかもしれない。

しかしながら、公的年金は極めて重要だ。なぜなら公的年金の最大の特徴は「給付が終身であること」、すなわち何歳まで長生きしようが、死ぬまで年金を受け取れるというところにあるからだ。つまり最低限、ここまでは安心できるというセイフティーラインを知ったうえで自分の生涯にわたるマネープランやライフプランを考えることが必要なのだ。

Private Pension:個人で準備する貯蓄や投資などの備え

さらにサラリーマンにとっては「退職金」や「企業年金」といった退職給付制度の恩恵を受けることができる人もいる。そういう立場の人であれば、公的年金の知識に加えて会社の制度がどうなっており、それによってどれくらいの期間、どれくらいの金額の給付を受けることができるかを知ることも重要である。残念ながら、これも多くの人は理解していない。50代からの資産運用を考える場合には、若い頃とは違い、近づく「公的年金の支給」や「退職給付制度」を考えることが重要だ。個人での資産形成や資産運用は、こうしたいくつかのステップ、すなわちWPP.の全体像をつかんだうえで考えるべきなのだ。順番を間違えてはいけない。

さらに言えば、公的年金制度も企業の退職給付制度も給付や税制の面でフレキシブルな制度になっていることも忘れるべきではない。一例を挙げると、もし70歳まで働くつもりであれば、公的年金の支給開始年齢を遅らせることで年金支給額が4割以上も増えるし、企業型の確定拠出年金も70歳まで非課税での運用が可能なので、一時金で引き出しをせずに運用を続けることによって税制メリットが受けられる、といった具合だ。年金や退職金の受け取り方は様々で、うまく組み合わせることで思いがけないメリットが生じることもある。これらを知っているのと知らないのとでは大きな差となるだろう。

50代からの資産運用で大切なことは、ただひたすら貯蓄や投資の額を増やすだけではなく、こうした制度のしくみや税制を正しく理解することである。それによって効率的な資産運用をおこなうことが可能になるからである。そこで次回は、どういう項目をどのようにチェックしておくことが必要かについて解説してみよう。